VS歩仁内-7
自転車を20分ぐらい走らせた所に石澤の家はあった。
車の往来もあまりない、閑静な昔ながらの住宅街の一角に佇む彼女の家は、古くもなく新しくもなく、目立った特徴もない、ごく普通の白い家だった。
石澤が俺の家に遊びに来ることはあるが、その逆は初めてだった。
なぜか、石澤は自分の家に俺を呼びたがらない。
別に見られて恥ずかしい家というわけでもないし、庭なんかは小さいながらも綺麗に手入れされていて、とても好感が持てるのに、なぜ俺を来させたくないのだろう。
その理由がわからないまま、俺は石澤の家を見上げていた。
「着いたね〜」
沙織は先程買ったお菓子の箱を、俺が乗ってた自転車のかごから取り出すと、一足先にスタスタと玄関のポーチへ向かって歩いて行った。
それにゾロゾロ続く残りのメンバー。
その様子を見て、やはり見舞いにしては大げさ過ぎるような気になり、俺は控えめに最後尾のポジションを陣取った。
それなのに、
「ほらほら、彼氏は最初に行ってお母さんに挨拶しないと」
と、歩仁内が俺の背中を強引に押しやる。
うっとおしそうに奴を睨みつけるが、至って平然とニヤニヤしたままだ。
その何かを企んでそうな笑顔が妙に不安を煽り、俺は負け惜しみのように小さく舌打ちした。
ピンポーンと、沙織がインターホンを鳴らす。
するとすぐにドアが10センチほど開けられ、初めて会う石澤母が、まるでどこかの家政婦のように隙間から睨みつけるように覗き込んでいた。
後から聞いたのだが、最近ここいらでしつこいセールスが横行してるそうで、石澤母は自らを少し怪しい住人として装っていたので、このような応対をしていたらしい。
そんな事情など知る由もない俺達は、わずかな隙間から無言で覗き込むだけの石澤母に、すっかりビビってしまったのだ。
……というか、モニター付きのインターホンなら、相手を確認してから出た方がいいのに、と思ったのは、きっと俺だけではないはずだ。
チラッとみんなを見やると、俺と同じように引きつった笑みを浮かべていた。