私にも気持ちいいこと教えて下さい-12
(それにしても………… 本当に本が好きなんだな…………)
風音の部屋を見渡しながら、今更ながらにその本の多さに驚く僕。
勉強家でなにより本が好きっていうのは知っていたけれど、
これほどまでに本に囲まれた生活をしていたら、
そりゃ活字中毒になっても不思議無いと納得してしまう。
(ん? そういや枕元にあるこの本………… 昨日はこれを読みながら寝たのかな?)
そう思い僕は何の気無しに枕元にあった本を手にとった。
ブルーのカバーがつけられた随分と薄い冊子。
分厚い書籍が所狭しと並ぶこの部屋で、少しばかり異質に感じながらも、
ペラペラとそれを捲った僕は、その内容に思わず言葉を失った。
(こ、これってもしかして………… 同人誌ってヤツ?)
同人誌、それもいわゆる薄い本と称される少しエッチな類のもの。
別に同人誌そのものに偏見は無いし、見た事無いわけでもないのだけれど、
何よりこういったモノが他ならぬ風音の部屋にあることに僕は驚きを隠せなかった。
(風音ちゃんもこういうの読むんだ…………)
もちろん決して悪い事では無い。
むしろこの寮にいる以上、どちらかと言えば健全とさえ言える。
けれど風音が、潔癖すぎて困ってると言っていたあの風音が、
こういったモノを読んでいたという事実に、驚きを通り越して戸惑ってしまったのだ。
(な、なんか、見ちゃいけないモノを見ちゃった気がする…………)
そう思い僕は軽く咳払いをすると、
本を閉じ、もとあった枕元へとそれをそっと戻しておいた。
秋子さんに活字中毒からの妄想および言語過敏症であると診断された風音。
そもそもその話を聞いた時から、僕はどこか違和感を感じていた。
それは、いかにここがカウンセリングを主とした病理棟と言えど、
風音の症状はあまりに一般的な症状であるため、
ここ花咲寮で施すような特殊カウンセリングを必要とするとは到底思えないからだ。
(妄想、そして過敏症………… 言葉だけ聞けばなんだかエッチな響きだけど、
あくまでそれは言語に対してだもんな…………
どうしてそんな症状の風音がここに入る事になったんだろう?
秋子さんの事だから何かしら意味があっての事だろうと思うんだけど…………)
風音の手を握りしめたまま、ぼんやりとそんな事を考えながら、
いつの間にか僕は、そのままうとうとと眠りに落ちてしまっていた。