厨房 旭(アキラ)の事情(旭って誰?)-4
「それにだ、てめぇの失敗の原因はわかってる。女だな」
「板長…」
旭は板長がそこまで知っていることに驚いた。
「てめぇ、佐代と別れたんだってな。何故だ?」
「はい、修行の邪魔になると思って」
「旭、それは逆効果だ。料理の修業は寺の修行とは訳が違うぞ。それがわからねぇのか?」
「い、いえ、わかりません」
「あのな旭、簡単なこった。オレ達料理人とって肝心なのは、お客さんの食欲という煩悩を刺激することなんだよ。そのオレ達自身がだよ、欲違いでも煩悩を振り払らったら、いい仕事できるわけがねぇんだ」
「あっ!」
板長のわかりやすい言葉で旭は得心がいった。佐代とのセックスに刺激される日々と、そして禁欲していたこの一週間を比べて、料理に対する姿勢が全く違っていたことに気が付いたのだ。
「わかったようだな。オレ達ような人間の欲望を刺激する仕事に付くものはよお、何も我慢する必要なんてねぇんだよ。反対に我慢するとうめえモンがつくれねぇぞ。貝を料理する時に、前の晩に抱いた女のアソコの味を思い出さねぇでどうするよ」
「い、板長もそうなんですか?オレ、貝料理の時に佐代のアソコを思い出しては勃起して、これじゃあダメだと思ってたんです」
「バカやろー!貝料理の時に勃起しねぇで一人前の料理人と言えるけぇ!」
「そうだったんですか。それならオレが佐代と別れたのは、料理を修行する身にとっては失敗だったということですか」
「そういうこった。オレなんか旭くらいの歳にゃあ、4、5人の女と付き合っていたから、ちんぽが乾く暇が無かったてぇもんだ」
「ちんぽが!い、板長、あらためて尊敬します」
「バカやろー、照れるじゃねぇか!」
板長は柄にもなく照れた。そしてその照れを隠すために旭に詰問した。
「なら旭よ、てめぇが今何をしなきゃいけねぇかわかっただろうな!」
「はい、今晩にでも佐代に謝って、ヨリを戻してきます」
「バカやろー!何が今晩だ!今すぐ行って溜まったモンを佐代の中にブチ込んでこい!」
「で、でも仕込みの途中ですけど…」
「気にするんじゃねぇ!こっちの仕込みはオレ一人でなんとでもならあ。てめぇはさっさと佐代に仕込んできやがれ!」
板長は包丁を振り回して旭を厨房から追いたてた。
「は、はい!」
旭は板長の剣幕に慌てて厨房を飛び出していったが、その表情には一流の料理人の品格と、自信に満ちた笑みを浮かべていた。
そんな旭の後ろ姿を見送った後、板長は気持ちを切り替えると早速仕込みに取りかかった。
一旦気持ちを切り替えた板長の顔は真剣そのものだった。こちらは旭とは次元の違う超一流の料理人の表情だった。その別格の表情に空気までも触発されて、凛とした雰囲気が厨房を被っていった。
しかし、その超一流の料理人の手が、或る食材を手にした途端にピタリと止まった。
「うおっ!これはググッときやがるなあ、ちくしょ〜〜〜」
板長は活きのいい鮑を手にしながら、股間をふっくらと膨らませていたのだった。