和也が求めるなら何だってするぞ?-9
「ただな………… 人は必ずしも経験しなければそれを知り得ないわけではない、
知らずとも識っている事、すなわち知識というものを学べる生きものでもある」
「知らずとも識っている事………… ですか?」
「ああ、得た知識から想像力を掻き立て、あたかもまるで経験したかのように、
そんな奇妙な事を無意識にしてしまうのもまた人という生きものなんだよ」
これもまた聞くと当たり前の事なのに、
秋子さんに言われるといちいち説得力があるから不思議だ。
確かに何もかもを経験しなければいけないとなると人生を何周しても足りそうにない。
すべての人間がすべての事象を経験するわけにはいかないからこそ僕らは、
さも当たり前のように知識や想像力でそれをカバーして生きているのだ。
「つまり………… ん? あれ? それじゃあ我慢っていったい…………」
「ふふ、そうだな………… 一言で言えば自己抑制じゃないかな?」
経験・知識・想像力───これらすべてを駆使して己を律する。
何だかえらく仰々しい話になってきたけど、つまるところ我慢って言うのは、
自分が自分であるために、自分の望む自分でいるために行う自己抑制って事かな?
「だから君の気になるあの子は、誰よりも自分に厳しいということだろうさ…………」
「き、気になるだなんてっ そりゃ心配ではあるけどっ」
「そんなに本気で慌てるな………… その態度は返って私を不安にさせるぞ?」
「ううっ………… いつにも増して今日は意地悪ですね…………」
指先で僕の鼻を弾きながら苦笑いする秋子さん。
どこまで本気なんだか、相変わらずその表情からは上手く読み取れない。
「でもな………… やはり経験に勝るものは無いさ…………」
「ん? え………… あ、秋子さん何を…………?」
突然、秋子さんは僕の首筋に軽く唇を重ねたかと思うと、
そっとまた右手で萎えた股間をまさぐりはじめた。
「私は今日経験するまで、フェラチオなんてオーラルセックスの一種…………
ただ性器を口唇で愛撫するだけのものだと信じて疑わなかったのだが…………」
体中を啄むようなキスを繰り返しながら、
ゆっくりとその身を僕の下半身へと移動させる秋子さん。
「んっ…… ま、待って………… まだ出したばかりで僕…………」
「まるで口の中を犯されているような気分とでも言うのかな?
思っていた以上にこの行為は私自身の性欲を掻き立てるものみたいで…………」
「あ、秋子さ………… んっ……」
ビクビクとまるで女の子みたいに下半身を震わせ、
その暖かな感触に力が抜けてしまう僕。
口では拒否するような事を言いながらも、すっかりその身を任せてしまっているのは、
秋子さんが言うところの甘味を体が憶えてしまったからなのだろうか。