立ちこめる湯気の向こう側-1
(まったくもうっ………… ホントに美咲さんは油断ならないんだから…………
それにしても必ずしも誰もが自分の性癖に向かい合えるとは限らないって、
それっていったいどういう意味なんだろう…………)
美咲さんの部屋を出た僕は、食堂に寄って溜まった洗い物を片付けると、
ぼんやりとそんな事を考えながら、自室へと続く廊下を歩いていた。
「あら遠藤くん? やっと美咲さんから解放されたの?」
「主様………… 遅くまでおつとめご苦労様です」
そう僕に声を掛けたのは雪菜と雫、
ほくほくとした表情と濡れた髪から察するに、どうやらお風呂上がりのようだ。
「やあ、二人とも………… 仲良くお風呂だったのかい?」
「ち、違うのよっ こいつがひとりじゃ髪洗えないっていうからっ」
「なっ! お、お前が雫の髪を洗いたいと言うから仕方なくだな…………」
そんなに否定しなくてもいいのに、どうしてこの二人はいつもこうなんだろう?
「な、何笑ってるのよっ 遠藤くんっ」
「いや、ホント二人は仲がいいなって思ってさ」
「ぬ、主様っ 違うのですっ! 別に雫とこの目狐とはっ…………」
「ま、また目狐って言ったわね! まったくどうしてあんたはっ…………」
「はいはい…… 喧嘩しないの…………」
こうして二人を見ていると心が和む。
いかに人に言えない特殊な性癖を抱えていようとも、
普段はどこにでもいる元気な女子校生と代わり無いのだから。
願わくば早く悩みを克服して、
もっと普通の生活を歩められたらと思うのだけれど……
「あれ? 遠藤くんってばまだそのズボン履いてるの?」
「うん? ああ、まだお風呂にも入ってないから…………」
「ホントに私が洗濯するんだからね、忘れずカゴに入れておいてよ?」
「あたりまえだっ そもそもはおまえが主様のズボンを汚したのだろうがっ」
「う、うるさいわねぇっ わかってるわよっ…………」
でも、これはこれで二人にとって楽しい共同生活なのかもしれない。
「と、とにかくっ 早くお風呂に入ってゆっくり休むのよ?」
「ふんっ 目狐風情が何を主様に命令してるのだっ 謝れっ 謝るのだっ!」
「ホントうるさいわねっ! いい加減にしないと勉強見てあげないわよ?」
「なっ! ずるいではないかっ それならやっぱり風音様にっ…………」
「あーもうっ うるさいうるさいっ! そんなに言うなら風音の子になりなさいっ」
「わ、私はそんなに子供ではないっ!!!」
そんな事を言い争いながら二人は、廊下の向こうへと仲良く消えていった。
(お風呂か………… そうだな、そろそろ僕も入ろうかな?)
そう思い僕は自室に戻って着替えを手に取ると、
その足でそのまま浴室へと向かっていった。