「誰?」から「彼」へ-1
「鈴木綾さん!好きですっ!付き合って下さいっ!!」
学校の廊下のド真ん中でいきなり見知らぬ男子にそう叫ばれた。
「………はぁ?」
わけがわからず聞き返してしまう。隣にいる友達も驚いてその男子を凝視している。
「あのー…罰ゲームか何か?」
「違うッスよ!俺マジ鈴木さんのことが好きで!」
ますますわけがわからない。私はそんなに容姿が上等なわけでもないし…喋ったこともない人から好かれる理由が見当たらない。
「え〜っとぉ……」
キーンコーン……
なんて答えていいかわからずに言葉を濁していると、授業開始のチャイムが鳴った。
「あ、ヤベ!あのっ、じゃあスンマセン!」
そう言うと彼はくるりと背を向け、廊下を猛ダッシュして去っていった。
「綾、あれ誰…?」
「知らない……」
あっけにとられつつも、先生が来る前にと私達も急いで教室に入った。
ヴ〜…ヴ〜…
授業開始後すぐ、私のポケットの中の携帯がなる。
開いてみるとさっき一緒にいた友達、美里だった。
『ぁゃ!さっきの子誰ェ〜!?赤のスリッパだったカラ、2年生ぢゃん!?顔はまぁまぁだったぢゃん(*´∀`*)どぅすんの!?』
返信を打とうとすると、後ろから肩を叩かれる。
振り向くと男子が小声で話し掛けてきた。
「鈴木サン!さっき2年の奴に告られてなかった!?」
「見てたの!?」
「ウソ!綾、マジ!?」
驚いて返事をするとその隣の女子も話に入る。
「マジだけど〜…断るし」
「ウッソ何で!?」
信じられない、というような顔をされた。
「だってあれ誰か知らないし……」
「え〜。メールだけでもしてみればぁ?」
「いいよ別にぃ…」
非難の声がまだあがっていたが、私は向きを変えて黒板の字を写し出した。
キーンコーン……
昼休みになって、お弁当を食べるために美里の隣の席へ行く。
「綾〜返事ぃ〜」
美里は机の上の携帯をコンコンと叩く。
「あ。ごめぇ〜ん」
そうだ。美里に返事忘れてた。私は笑って謝りながら椅子に座り、お弁当を開く。