『SWING UP!!』第14話-2
(大和のお母さん、随分と日本に帰ってないから、寂しいのかな……?)
ふと、桜子は思うことがあった。
当初は半年だけの滞在だと聞いていた大和の母親の海外赴任が、一年以上も延びたという状況は知っていた。年度初めに、3日ほど帰ってきたことはあったらしいが、後からそれを聞かされたので、桜子は、会って挨拶することも出来ず、とても残念な思いをしたものだった。
(でも、お手紙、来たんだよね…)
“蓬莱亭”宛に、海外からのエアメールが届いて、その中には“大和のこと、いつも気にかけてくれて、どうもありがとう”という内容の文章が、したためられていた。特に住所は教えていなかったが、桜子の実家が“蓬莱亭”という大衆向けの中華料理店であることは、おそらく大和から聞いて、知っていたのだろう。
大和が早くに父親を亡くし、また、自分の不甲斐なさで、義理の父親も失うことになった事実も、隠さずそこには記されていた。
『…
大和にはいつも、寂しい思いばかりさせてきてしまいました。今だって、そうです。それでも、この前、久しぶりに会った時、大和が変わらず優しい子でいてくれたのは、貴女がずっと傍にいてくれたからだと思うのです。母親として、本当に、言葉にしようがないくらい、貴女には感謝しています。 …』
大和の母・和恵とは、電話口でわずかにやり取りをしたことはあったが、ここまで真摯な言葉をもらったのは初めてだった。桜子は胸が熱くなって、潤んだ目元を何度も擦りながら、その手紙を読んでいた。
手紙が来たことは、何となく伝えそびれてしまって、大和には言えていない。だが、その手紙から受け取った母親の気持ちを、桜子は、大和への愛情に昇華させることで、彼女の想いに応えたい、と、考えていた。
「んっ、やまと……あ、あっ……ンンっ……」
“おっぱい”に吸い付いて離れない大和を、抱きしめている今の姿も、そのひとつの表れなのである。
「もっと……もっと、吸って、いいんだよ……」
ちゅぱ、ちゅぱ、と、唇で乳首を吸い上げられる悦びに、桜子は陶然としている。
「あたしの、おっぱい……いまは……大和だけの、ものだから……」
吸われるその先端から溢れるものは、愛を育む“母性”である。その象徴である豊かな乳房で大和を丸ごと包み込み、桜子は、愛情の全てを彼に注ぎ込んでいた。
「………」
ちゅっ、ちゅばちゅばっ、ちゅう、ちゅう、ちゅばっ…
「んぅっ、んん、ンっ、んふっ、ンンっ……」
一心不乱に、大和が乳首にむしゃぶりついている。出るはずのない母乳を、それでも諦めきれないのか、必死にしゃぶって吸い出そうとしているようにも思えた。
「ごめんね……まだ、おっぱい、でないから……」
そう言って、大和の髪をくしけずる桜子。汲めども尽きない“母性愛”はあれど、それが栄養となって、母乳として乳首から滲み出てこないのは、如何ともしがたかった。
ちゅぱぁ…
「ンッ……」
乳首に対する吸引力が、消えた。じりじりとする余韻を、右側の先端に感じながら、恍惚とする桜子である。
「んっ、あっ……」
右がダメなら、左で、とでも言うのだろうか。
「あン……こ、こんどは、そっち、なんだね……ンッ……」
大和が、今度は左の乳房にむしゃぶりついてきて、そのまま乳首を吸い始めた。
「甘えんぼさん……でも、いいよ……いっぱい、ちゅうちゅうしてね……」
ちゅぱ、ちゅぱ、と再び、乳首を吸引される愉悦に浸りながら、桜子は大和を抱き締める。
「大和……大和……」
乳房に求める安息を、大和が心ゆくまで堪能できるように、優しく優しく、その頭を撫で続ける。まるで我が子を抱くように…。
「………」
ちゅぱちゅぱちゅぱっ、ちゅっちゅっちゅっ、ちゅぱちゅぱちゅぱっ…
「ンッ……あふっ……あンッ……んんっ……んふぅ……」
一意専心に、大和が乳房にむしゃぶりついている。やはり、出ることのない母乳を、それでも求めて、懸命にしゃぶって、吸い出そうとしているようにも見えた。
「ごめんね……おっぱいでなくて、ごめんね……」
なんだか申し訳ない気分になって、桜子は、そんな大和を宥めるように、優しく髪を撫でる。ごく稀に、妊娠していなくとも母乳が出る体質もあると耳にした事はあるが、そんな身体ではない自分が、少しばかり残念に思う桜子であった。もしそうだったとしたら、大和が求めるままに、存分にお乳を吸わせていたというのに…。
(哺乳瓶、用意しようかな……)
そこまで来ると、“赤ちゃんプレイ”という、全く別次元の“性愛行動”になってしまうのだが、“おっぱい”に執着している今の大和を見れば、それも本気で考えてしまう桜子なのであった。