鉄格子の向こう側 *性描写-3
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(――ったく、よくやるね〜)
封じ石の壁にもたれ、ミスカは冷めた目で、鉄格子の向こう側を眺める。
牢獄は狭かったが、簡素な寝台と、小さく囲われたバスルームまであり、魔法が使えなくとも不自由はしない。何よりツァイロンのそばにいるより、よっぽどマシだった。
「ん……ん……ふ……」
向こう側では女体のエリアスが床に跪き、喉奥深くまで肉棒を咥えこんでいた。
寝台に座り込んでいる男のモノは、随分大きかったから、さすがに根元まで咥えると少し辛いらしい。苦しそうに眉を潜めている横顔が見えた。
主の一人である大柄な男は、あきらかにミスカの視線を意識しており、時おり面白そうにニヤニヤ笑ってこちらを見る。
くだらないが、目を逸らすのもシャクだし、暇だからそのまま眺めていた。
エリアスの容姿は抜群で、表情は艶めいて仕草もいちいちエロい。淫猥そのものの光景だ。
それでもミスカは、この光景に欠片も欲情する気にはなれない。
ツァイロンのくだらない検査の中には、性行為も入っていた、
性玩具に造られた女を抱いて、それなりにスッキリするのは知っているけど、やっぱり自分から欲しいとまでは思えなかった。
――なにより、エリアスは屍みたいで気持ち悪い。
それがミスカの率直な感想だ。
程なく男が顔をしかめ、息を荒くしだした。
男は両手で、エリアスの黒髪を掴んでいたが、大きく身体を震わせた瞬間、無理やり髪を引っ張り顔を引き剥がす。
鈴口から噴き出した精液が、エリアスの顔を盛大に汚した。生臭い匂いがこっちまで漂ってきて、ミスカは顔をしかめた。
エリアスは怒るでもなく、黙って頬にこびりついた粘液を手で拭う。
「ちゃんと舐めろよ」
男が命じると、淫靡な笑みを口端に浮かべ、従順に従ってみせた。
閨に備え付けのシャワーで身体を洗い、男は出て行った。
丁寧に見送ったエリアスは、扉が閉まった途端、それまで浮べていたソツない笑顔をしまい、無表情になる。
艶やかな黒髪にはまだ残滓が少しこびりついていた。
「おい。イイ加減、腹立たねーの?あの男、しょっちゅう同じことやるじゃねーか」
あの主はどうやら、自分の行為が牢獄の反逆児を欲情させていると、勘違いしているらしい。
ミスカの方が腹立たしくなってきて、つい尋ねてみた。
しかしエリアスは、ミスカに視線さえ向けず、黙って部屋の片隅に仕切られたシャワー室に入っていった。
「……フン」
ミスカと二人きりでいる時、エリアスは基本的に、無口で無表情だ。ミスカを空気のように無視する。
自分を使いにくる主や、何かの用で来る仲間の作品たちには、ソツない笑みを浮かべて丁重に接するが、いなくなった途端に表情を消す。
エリアスに初めて会った時は、ガッカリした。
容姿に落胆したのではない。そっちならむしろ、想像していたより遥かに綺麗で、一瞬見惚れたほどだ。
イラついたのは、酷い扱いをされているのに、従順に従っていること。
もしエリアスが、ちょっとでもツァイロンへ不満を持っていて、ただ廃棄を免れたいからミスカに『従ったほうがいいですよ』と勧めたなら良かった。
それなら少しくらい仲良くなれたかもしれない。大人しくなったフリをして、エリアスを助けてやりたいと思ったかもしれない。
だがエリアスは、本当に従うのが当然と思っているのだ。
あんな扱いをされていても、何も疑わずに。
言われた通りの事を、淡々とこなし、何の感情も持ってない。
少なくともミスカは、エリアスが心から怒るのも笑うのも見た事はなかった。
(……くだらねぇ。廃棄でもなんでもされちまえ。どうせ同じことだろ)
シャワーの水音を聞きながら、心の中で吐き捨てる。
動いてしゃべっているが、エリアスは生きてなんかいない。
ミスカ以上に乾燥しきり干からびた、何の意味もない、ただの屍。