36 咎人の償い-8
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――1年後。
広い大陸には、いまだ無数に争いの種が転がっている。
特に小国が密集している西北部分は、ジェラッドやストシェーダのように安定した大国の力がない。政治も不安定で、リザードマンを始めとする魔獣や野盗に、人々は脅えながら暮らしていた。
そこで彼らが頼るのは、村や町ごとに雇う傭兵たちだ。
荒野と山岳に囲まれたとある街でも、二人組みの傭兵を雇う事にした。
「はい、お待たせ〜」
青銀の長い三つ編みをした青年が、縛り上げた盗賊の幹部たちを引き摺ってくる。人数の多い大規模なこの盗賊団に、長くこの地方は苦しめられていたが、それも今日で終りだ。
青銀の青年は凄まじく強かった。
どうやら魔法使いらしいが、剣も身体の動きも常人離れしている。鎧一つつけない身軽な旅装で、腰に一本の長剣を差しているだけだ。
あれだけの盗賊を相手取りながら、傷一つ負っていない。
しかし数多い手下たちを一掃できたのは、彼の相棒である黒髪の青年が、見事な罠を作り上げ誘導したからだった。
中性的な美しい顔立ちをした黒髪の青年は、優雅に微笑んで相棒の隣りに立っている。
二人組みの傭兵は盗賊を引き渡し、礼金を受け取ると、さっさと街を後にしてしまった。
「一仕事終えたばかりなのに、もう嗅ぎつけられましたね」
街道を歩きながら、エリアスは肩をすくめる。
街の群集の中に、海底城からの追っ手を見つけた。もう何度目になるかわからない。
あの場で騒ぎを起こすわけにいかないだろうが、人気がなくなり次第、襲いかかってくるだろう。
「まったく。ゆっくりいちゃつく時間くらい、くれてもいいのにな」
「隙あらばいつでも盛ってくるくせに。貴方は少々禁欲したくらいが、ちょうど宜しいのです」
エリアスは口を尖らせたが、昔のように本気では怒れないのが悩みの種だ。
裏切りの代償は重く、一箇所に長く留まる事もできない。死と隣り合わせの危険は、この先ずっとつきまとうだろう。
アレシュたちが幸せに暮らしている事も、風の噂で聞くくらいだ。
それでも、あの選択を後悔してはいない。
荒野を吹き抜ける風が、艶やかな黒髪を飾る黒と金の魔石を揺らし、エリアスは形の良い唇を、小さくほころばせた。
金色の愛しい魔眼の隣りで。
二人とも咎人だ。
ミスカはエリアスを、エリアスはミスカを、互いに海底城から裏切らせた。
手軽な死に逃げるなど許されない。
共に生き、互いを守り、罪を償い続けるのだ。