主様がお望みとあらば-8
「雫ちゃん? どう? 気持ち良かったかい?」
「はぁ…… 主様………… はぁ…… 主様はやはり…… 最高であります……」
ここまでしておいて言うのもなんだが、僕にサドっけは微塵もない。
どちらかと言うと甘えたで保守的、
命令するよりされる側の人間ではないかと思ってるくらいだ。
なので雫のカウンセリングは当初からとても難解を極めており、
いろんな資料を漁りながら必死でここまで辿り着いた結果がこれ。
だからこそこうして雫に喜ばれると、僕としてもかなり嬉しい限りなのだ。
「主様? どうしました主様?」
「あ、いや…… 雫ちゃんが喜んでくれて嬉しいなってね…………」
「雫に付き合わせてしまったせいで、すっかり日も暮れてしまいましたね?」
「ホントだね………… 外はもう真っ暗………… って今何時???」
僕は慌てて時計を見た。
「やばっ もう六時過ぎちゃってる!?」
「ど、どうしたのですか主様?」
「ごめん、今日はその…… 風音ちゃんと食事当番なんだ」
「えぇっ! か、風音様とですかっ そ、それは大変ですっ!!!」
「う、うんっ、すぐに行かなきゃ…… また怒られちゃうよ…………」
そう言って僕はすぐにその場に立ち上がろうとするも、
雫は何かを言いたげな様子で、ギュッと袖を掴んでは離そうとしない。
「ど、どうしたの雫ちゃん? 僕もう行かなきゃ……」
「あ、あの主様…… その前に…… その…… い、いつものを…………」
「うん? ああ、そうだったね………… ごめんごめん!」
あまりに慌てていたため忘れていた。
雫とのカウンセリングの後は、その証として必ず体のどこかにキスをする約束なのだ。
それもしっかり跡が残るほどのヤツを……
どうやらそれは雫の中で『印』と呼ばれるものであり、
絶対にはずせないある種の儀式のようなものらしい。
「じゃぁ…… 今日はどこにしようか?」
「ど、どこでもかまいません………… 主様のお望みの場所に…………」
そう言うと雫はそっと目を閉じ、僕の口づけを黙って待ち望んだ。
「あまり見えるところにしちゃうとまずいしなぁ……」
「雫はいっこうにかまいませんよ?」
なんて言われても誰かに見つかったらいろいろ説明も難しいわけで、
僕は雫の体を見つめながらしばらく考えた末、
制服の裾をたくしあげては、細い脇腹へとそっと唇を這わせていった。
「んっ…… はぁっ………… 主様っ…… んんっ…… あぁっ…………」
「…………ここなら誰にも見つかる心配も無いよね?」
うっすらと唇の形をした赤い印が、白い雫の肌に浮き上がる。
「はぁ…… 主様からの印………… はぁ…… 確かに………… はぁ……」
荒い息をあげながら、ふらふらとその場に立ち上がると、
とても嬉しそうに何度もその跡を指でなぞる雫。
「主様………… 今日はその…… ありがとうございました…………
またよろしければ、この雫めになんなりとご命令を………… お願いします……」
そう言って深々とお辞儀をしながら、満足げな笑顔で僕の部屋を立ち去る雫。
僕はその背中を見送るも束の間、雫が部屋を出たのを確認するやすぐさま腰を上げると、
急いで風音の待つ食堂へと足を向けた。