主様がお望みとあらば-2
ここ花咲女子寮は、重度の性心理障害を持つ女性のための特別治療棟だ。
僕はここの管理人でありながらカウンセリングという名の精神ケア
───つまり彼女たちの性欲処理に従事している。
ただ、性欲処理とは言っても、なんでもありの淫奔生活が許されているわけではなく、
そこには御法度と呼ばれるそれなりのルールがいくつか存在しており、
『恋愛感情を持たない』『性行為はしない』はもちろんの事、
雪菜の言った『互いの性癖に干渉しない』というのもまた大切なルールのひとつだ。
「じゃ、遠藤くん…… 私はそろそろ部屋に戻るね? あ、シーツは持っていくけど、
汚しちゃったジーンズは後でちゃんと洗濯カゴに入れておいてね?」
「はい、わかりました。また何かあったらいつでも来て下さいね?」
「ん、ありがと! でもそんな事言ったら………… すぐまた来ちゃうかもだよ?」
「来なくていい! いいからさっさと出て行けこの目狐め!」
「いたっ…… このガキっ………… ったくもうっ! じゃぁ遠藤くん、また!」
「はい、またです!」
そう言って雪菜は笑顔で僕に手をふりドアを開けると、
振り向きざまに雫に舌を出してはそっと部屋を立ち去って行った。
「もう………… なんだって雫ちゃんはそんなに雪菜さんと仲が悪いんだい?」
「それはおそらく彼女が前世で私の恋敵だから………… なので現世こそは……」
「そういうのはいいからっ」
「はうっ…… だ、だって主様があまりにあの女ばかり可愛がるから…………」
雨宮雫は、自らを従属的地位に貶める事で性的興奮を感じる一種の依存性人格障害だ。
本来、依存性人格障害とは、社会生活における様々な場面で主体的責任から逃れる、
つまり他人にその判断を委ねてしまうという精神障害の一種であるが、
雫の場合は性的な部分においてのみその症状が見られる極めて希なものである。
いわゆるマゾヒストと似ているが、肉体および精神的な苦痛を望んでいるものではなく、
あくまで『命令される事に悦びを感じている』部分にその違いがあるらしい。
「そこに中二的妄想癖が混ざってるからやっかいなんだけどね…………」
「? どうかしましたか主様?」
「いや、なんでもないよ…… それより今日は一日、いったい何をしていたんだい?」
「き、今日は………… その……」
「うん? 言えない事?」
「ち、ちが………… むしろ主様の命を受けて…………」
「うん、何をしてたんだっけ?」
「その………… し、下着を着けずに…… 学校で補習を……」
そう言って雫はペタリと床に腰をつけると、
落ち着かない様子でスカートの裾を指で抑えこんだ。
「そうだったね…… さぼってばかりいるから進級早々補習になっちゃって…………
その罰として僕に一日下着を着けずにいろと命令されたんだったね」
「は、はい………… なので雫は主様の命じるままに…………
その………… 何も履かずにちゃんと一日過ごしてまいりました…………」