恋する気持ち-2
「――あ、直樹!転校生、便所から出てきた!!」
「えっ?…ちょ、おま、泰臣!?」
ニヤリと笑った親友の顔に、なんだかとてつもないイヤな予感を覚えた俺。
慌てて泰臣へと右手を伸ばすも、その指先は虚しく空を掴んだ。
黄色いトレーナーを着た小柄な坊主頭は、紺色のカーディガンを着た背の高い少女の前へと躍り出て。
「転校生さん!便所長かったですけど、う●こですか〜!?」
……最悪、だ。
案の定、周りの空気は一瞬にして凍り付き、賑わっていた休み時間の廊下に沈黙が流れる。
そして。
ニヤニヤしながら進路を塞ぐ泰臣を凝視する、渦中の転校生。
(――ヤベッ!あの子、泣き出すかも)
「お、おい…」
「う●こじゃなかったけど、それが?」
(………はい?)
とっさにヤバイと判断して、とりあえず何かしらのフォローをしようと駆け出した俺の…思考回路、停止。
え、今この人『う●こ』って言ったよね!?
…いやいや、俺が知る限り、女ってこういうワード禁句じゃねえの?
予想外の展開に、駆け出した形のままで固まる俺。
ちらりと泰臣のほうに視線をやれば、やっぱりあいつもひきつった笑いをその顔に張りつけたまま、考えもしなかったであろう転校生の逆襲にフリーズしている。
おまけに、彼女の反撃はどうやらこれでおしまいではないようで。
「…あなた、同じクラスの君島泰臣くんだったわよね」
「は、はい!そうです…」
小学生にしては高いその身長の転校生が、ズイッと泰臣の目の前に立ち塞がったのだ。
「そして、そっちのあなたは水沢直樹くん」
「えっ、俺?っつーか、なんで名前…」
「昨日、みんな自己紹介してくれたじゃない」
いや、確かに転校生の自己紹介が終わったあと、俺らも順番に自己紹介したんだけど…こいつ、それだけでクラス全員分の顔と名前覚えたっていうのかよっ!?
俺は、改めてまじまじと転校生の顔を見つめてしまう。
腕組みをしながら、俺と同じくらいチビな泰臣を威嚇するかのように見下ろしていた転校生は、俺のその視線に気付いたのかふいに顔を上げた。
重なりあう視線。
「―――――――……!」
その瞬間。
心臓も世界も、止まったような気がした。
すぐに、その視線は再び泰臣にロックオンされてしまったけれど。
意思の強そうな大きな目に撃ち抜かれたんじゃないかって思うくらいに、俺の身体は電気が流れて。
全身から、力が抜けていくみたいだ。
何だよ、これ…。