忘れ物-1
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「もうすぐ夏休みですね」
「そうね」
「先輩は夏休み、どこか行く予定とかあるんですか?」
学校に向かう途中、住宅街を歩きながら何気ない感じで夏休みの予定を聞いてみる。夏休み前に付き合って夏休み中に先輩の処女――かどうかは不明だが――をもらうのが、俺が考える最高のプランだ。
「ある……ような、ないような?」
「どっちですか」
「お、乙女には謎がつきものなの!」
教えてくれなかった。なら別路線でいこう。
「彼氏とデート、とかですか?」
ある筋から『先輩に彼氏はいない』と情報を得ていたが、念のためにとカマをかけてみる。
「か、彼氏なんているわけないでしょ!まだ高校生なんだし、そういうのは早いのよ!」
顔を赤くして『怒る』先輩。好きな人はいるって感じの反応。
「そ、そういう大神くんこそ、夏休みは彼女とデートしまくる予定なんじゃないの?」
「いや、むしろホテルに行く予定です」
彼女になる予定の銀河先輩と。
「えぇっ!?ほ、ほてっ、えっ、えぇっ!?えぇっ!?」
「驚きすぎですよ」
やはり先輩は処女なのだろう。でなければ今みたいな反応はしない……気がする。
「ああ……どうしてこんなに、リアルは欺瞞(ぎまん)に満ちているんだろうな」
「「…………」」
俺たちの前に、変なセリフを言いながら後輩――中二病――の橘が現れた。
「スバル、ウルフ、おはよう」
「ていっ」
「あでっ!?」
先輩は橘の頭に軽くチョップをいれた。
「先輩を変な名前で呼ばない」
「し、仕方ない……それが貴様ののぞいでっ!?」
再びチョップ。
「先輩に貴様とか言わない」
「く……そんなに頭を叩かれると、私の中のあいつが覚醒してしまう」
うっぜぇ!中二病うっぜぇ!
「翔太、銀杏、おはいでっ!?」
「先輩を呼び捨てにしない」
「はい……おはようございます。狼せんぱい、銀河せんぱい」
大神が狼に聞こえた気がしたんだが、まぁ気のせいだろう。
「おはよう、そばかす」
「人のコンプレックスをあだ名みたいに言うなこのバカウルフ!」
「安心しろ。お前のコンプレックスは他にある」
「なん……だと」
「中二病はまだいい……よくないが、まだマシだ。お前の最大のコンプレックスは高一でアダルトゲームをやることだ!」
「せんぱぁい、コンプレックスの意味わかって言ってるんですかぁ?」
いきなり素に戻りやがった。恐るべし中二病。