忘れ物-3
「そろそろ『お兄ちゃん』って呼んでほしいですか?」
「何度も言うようだけどね、杏ちゃん。俺はお姉さんにしか興味がないの」
杏ちゃんは俺がお姉さん、つまり先輩のことを好きだと知っている――というか少し前にバレた。
「翔太先輩、世の中には姉妹丼というのがあってですね……」
「やばっ、そろそろ鐘なるじゃん」
ケータイ――ケータイを持ってくるのは本来校則違反なんだが――で時間を確認すると、鐘が鳴る二分前だ。
「話をそらされた!?……わかりました。ではいっこだけ、私の質問に答えてください」
「てっとりばやく頼む」
「先輩は巨乳って好きですか?」
「…………」
なんて質問をしてきやがるんだ。
「いやほら、男は結局おっぱい目当てだとよく聞くので。もし先輩が巨乳好きであれば、私も努力しなければいけませんし」
そう言って自分のない胸をぺたぺたと触る杏ちゃん。
「ま、まぁないよりはあったほうがいいんじゃないか?」
「なんだかズルい答え方ですね……まぁいいでしょう」
「もういいか?じゃあな」
そう言いつつ走りだそうとした――廊下は走っちゃダメとか言わない――矢先、無情にも朝礼を報せる鐘が鳴った。
振り返ると杏ちゃんはすぐ横の自分の教室から顔を覗かせ、こちらに手を振っていた。
「役員が遅刻なんてしちゃダメですよー」
お前のせいだろ!と思いつつも自分の教室へダッシュする。
……結果。間に合った。正確には担任の教師より早く教室に入ることができた。
***
昼休み。
今日は食堂で牛丼でも食べようかと席を立つ。
「ん?」
気のせいか……?教室の外から誰かが俺のことを見ていた気がするんだが。って自意識過剰すぎるだろ俺。
「おっす大神。迎えにきたぞ」
と今度は隣のクラスの前田――本名・前田 仁(まえだ・じん)――が教室の外で俺を呼ぶ。
「迎え?」
「やっぱり忘れてたか……今日の昼は役員会があるって言われてただろ」
役員会――生徒会役員の集会のようなものだ。
「あー……」
しまったやらかした。役員会がある時は各自弁当を持参し、昼食は役員会を進行しつつ食べるしかないのだ。でなければ昼食抜き。
「もしかして弁当忘れたのか?ははっ、なら今日は昼飯抜きだな」
「マジかよ……」