翔太と銀杏-3
平和ついでに、先輩に告白でもしてみようかな。メールで告白ってのはないよな。
「……そろそろか」
いつも家を出ている時間に近くなってきたので、焼けた食パンをマーガリンもつけずに口に放り込むように食べ終え、制服に着替えて家を出た。
ポニーテールにしている綺麗な黒い髪、たゆゆんと胸に実った果実、美しく黒いストッキング、学校指定のセーラー服、整った顔立ちに小柄な体躯。美人というより美少女な先輩。
「おっ」
ジャストタイミング!そんな先輩が家から出てきたところだった。
ここのタワーマンションは二十階建てで三階から上が居住区になっていて、居住区の各階の真ん中は吹き抜けになっていてそれぞれ部屋が六つ、六角形のように並んでいる。建物は円錐形なんだけどな。
で、先輩は俺と同じタワーマンションの同じ十階の吹き抜けを隔てた向こう側に住んでいるというわけだ。
「銀河先輩、おはようございます!」
各階二隅に存在するエレベーターのうちのひとつ、その前で先輩と偶然出会った――フリをした。
「ん。お、おはよ」
「メール、ありがとうございます」
エレベーターが到着するのを待つ間も、先輩と会話するのを忘れない。
「な、なにメールぐらいで、そんな嬉しそうにしてっ……」
先輩は顔を赤くした。もしかして怒ってる?
「そういえば、この階に幽霊が住んでいるらしいですよ」
「な、なに突然……あなた高校生にもなって、ゆっ、ゆゆゆーれいなんて信じてるの?バカじゃない?」
「どうやら、大好きだった杏仁豆腐を買ったのに食べられないまま死んでしまったみたいです。だから杏仁豆腐を食べてる人を呪い殺すとかなんとか」
先輩は無言で壁にある↓のボタンを何度も何度も押し続けた。
「先輩、今朝は何食べました?」
「ウルサイ、ユーレイナンテイルモンカ」
そんなことを言いながらもボタンを押し続ける先輩。
実を言えばこの話はデタラメ、嘘っぱちである。先輩の朝食が毎日のように杏仁豆腐であることを知っていて、さらに怖がりであり単純でもあることを利用して怖がらせてみたのだ。
エレベーターが到着し、そそくさと乗り込む先輩とその後ろ姿を眺めながら乗り込む俺。
先輩は一階のボタンとドアを閉じるボタンを押した。
「……さっきの話だけど」
「はい?」
十階から離れて落ち着いたらしい先輩は、安堵の表情で、
「その幽霊が食べ損ねた杏仁豆腐に、みかんは入っていたの?」
などと訊ねてきた。