33 飛竜使いの資格-4
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「……ナハトぉ……」
空色の瞳を潤ませる『元・パートナー』が、ナハトは今でも大好きだ。
せっかく可愛いのだから、たまには一緒におしゃれを楽しんでくれれば良いのに、と思う時もあったが、最高の竜騎士だった。
彼女を背に乗せ飛んだ日々が誇らしい。
(……でも、仕方ないじゃない)
あふれた涙が、ナハトの鼻先を伝っていく。
ゼノに行ってからずっと、取り残される夢を見続けていた。
小さい頃から繰り返し見る、ママがいなくなった時の悲しい夢だと思っていた。
けれど、アレシュを出迎えた日、背中で泣いているカティヤを見て、ふいに気付いた。
あのぬくもりは、ママでなくカティヤだった。
ひたすら竜騎士でいる事を望み、ナハトだけに向いていたカティヤの心が、どんどん離れていくのを、無意識に感じていたのだ。
それでもまだ、やり直せると思っていた。
バンツァーの言った通り、日常に戻って忘れてしまえば……。
ストシェーダの王子に惹かれたとしても、最後にはナハトを……竜騎士でいる事を選んでくれると思った。
憧れの兜を手にしながら、カティヤが悲痛な瞳でアレシュを見つめるまでは。
「きるるるっ!きるるるる!!〔カティヤは、アレシュ王子を選んだんでしょ〕」
仕方ないと思っても、やっぱり悔しくて、アレシュとカティヤを交互に睨んでやる。
「……すまない」
ナハトの言いたいことが伝わったらしく、カティヤはアレシュの腕から飛び降り、長い首に抱きつく。
すすり泣く声が、静かな厩舎に響いた。
「すまない……ナハト……私は……」
たとえパートナーが病気や怪我を負い、背に乗ることができなくなろうと、心さえ飛竜使いでさえあれば、飛竜は決してパートナーを変えない。
生きているかぎり……飛竜使いとして生きる限り、決して見捨てない。
けれどカティヤは、ナハトより騎士団より、魔眼王子を求めた。
あの瞬間、カティヤは飛竜使いの資格を失ったのだ。
そしてナハトは、新たな相応しいパートナーを選ぶ権利がある。
「ナハトは目が高い。兄さんは、最高の飛竜使いだものな……」
カティヤがそっと囁いた。
「きるっ!〔うん!〕」
バンツァーを失った悲しみと怒りに目が眩み、大事な事を忘れるところだった。
(だって……あたしに家族をくれたのは、ベルンだもん……)
毒霧と刃傷で弱っていたナハトを里に連れて行き、バンツァーと徹夜で看病してくれた。
『いきなり知らない場所に来て、不安だろうな』
キャベツを細かく千切ってくれながら、優しく話しかけられたのを思い出す。
『でも大丈夫だ。バンツァーも他の飛竜も、今日から皆、お前の家族だから……』