32 海底からの迎え *性・残虐注意-3
ジェラッド王城の一角。
牢獄に続く地下の入り口で、エリアスは結界を張り続けていた。
無数の兵士の目をくらませ、広い範囲に結界を張るのはかなり困難だ。
早く用を済ませて欲しいのだが、彼女はここぞとばかりに楽しんでいるようだ。
しびれを切らしかけた頃、ようやく階段を登ってくる金髪が見えた。
「おまたせ〜❤」
重そうな麻袋を引きずり、ミュリエルがニコニコと手をふる。
分厚い袋の中身は想像するまでもない。吐き気のする臭気が漂ってきそうだ。
どうせ牢獄で真っ赤にしただろう白いドレスは、すでに綺麗になっていた。
「できそこないの性玩具だったクセに、なかなか使えるじゃない❤その顔も嫌いじゃないし、ミュリエルの玩具になってくれるなら、もっと可愛がってあげるのに〜」
「……魔獣に襲われたよう、残りは処置しておきます。荷物はどうしますか?」
表情にも声にも感情を出さず、エリアスは淡々と尋ねる。
ほんの少し工夫すれば、ミュリエルに報告や獲物の捕獲をサボらせるくらい、簡単だったろう。彼女は案外単純だし、真面目でもないから。
しかし、わざわざそんな事をしてやる価値を、あの男はエリアスに感じさせなかった。それだけだ。
自分で思っていたほど、己の価値が高くなかった事に、今ごろようやく気付いたかもしれない。
「ミュリエルが自分で渡すわ。久しぶりにミスカにも会いたいし。あとの雑用宜しくぅ❤」
嬉々として麻袋を引き摺っていくミュリエルは、振り向きもしない。
最初から実用タイプの彼女にとって、元使用人のエリアスは、あくまで下の存在だ。
今更もう溜め息すら出ず、さっさと次の仕事へと取り掛かる。
兵士たちに魔獣の幻覚を見せたり、足跡など適当な工作をしたり……。手早くこなさなくては。
海底と違い、地上の夜は短い。