報告-2
明日告白すると決めたはいいけど、そのことばかり考えると、きっとまた怖じ気づいて実行できなくなりそうな気がして。
これ以上思い詰めないように、あとは勉強でもして雑念を振り払おうと、再び勉強机に向かったその時だった。
ピンポーンと階下でインターホンの鳴る音が聞こえ、私の耳はそちらに意識が集中した。
聞こえてくるのは、お母さんの愛想のいい上機嫌な笑い声、それにつられて笑う可愛い細い声。
………郁美だ。
私は持っていたシャーペンを叩きつけるように机に置くと、頬を机にペタリとくっつけて大きなため息をついた。
またのろけ話を聞かされるのか。
やはり郁美ののろけ話は何度聞いても辛くて、次第に郁美の存在がうっとおしくなってきた。
でも、今は来てくれてちょうどよかったと思い直す。
やっぱり郁美には言っておくべきだろう。
明日、土橋くんに気持ちを伝えて彼のことを完全にあきらめると言うこと。
そして郁美には、土橋くんをきっぱり諦めるから、もうのろけ話をしに家に来るのをやめてと言うこと。
告白して振られても、郁美がこうやってのろけ話を続ける限り、きっと私は土橋くんを忘れられない。
薄っぺらい友情も、報われない恋も、もう私はいらない。
そう考えると突然の郁美の訪問もタイミングがよかったかもしれない。
私は机からゆっくり顔をあげて、郁美が軽やかに階段を昇る音をじっと聞いていた。
ドアをコンコンとノックする音と同時に息を吸い込み、
「どうぞー」
と、なるべくいつもの調子で声を出した。
ガチャッとドアが少し開くと、郁美は相変わらず可愛い顔をひょこっと出して、
「おじゃまします」
と小さく舌を出した。
郁美は部屋に入ると白いコート脱ぎ、それを簡単にたたんで床に置いた。
そして指定席かのように、ベッドの脇にあるガラステーブルに向かって、ちょこんと座る。
白いオフタートルのニットに、黒いショートパンツ姿の彼女は、華奢な首筋がより強調されて一層女の子らしく見える。
かたや私は、一歩も外に出ていないので、いつものジーンズに黒いカーディガン。
この上なく地味な自分が恥ずかしくなって、わずかな抵抗をするようにカーディガンの袖についていた毛玉を一つつまむ。
やっぱりこの娘に勝てる要素なんて何一つないよなあ、とため息を吐きながらチラチラ郁美の姿を見た。
その時私はなぜか、ふと違和感を感じたけれど、そのときは理由がわからなかった。
「ごめんねぇ、夕飯前に。でもさ、どうしても桃子に聞いて欲しくて」
郁美は至極機嫌がいいようで、ニコニコ笑いながら両手を合わせた。
「……私も郁美に聞いて欲しい話があるんだ」
郁美の極上の笑顔とは対照的に、私は神妙な顔で彼女を見つめた。
だがキョトンとした顔で私を見ていた郁美は、
「あー、じゃああたしの話先でいい? すぐ終わるから」
と、私の言葉をサッサと遮った。
私はフウ、と小さく息を吐いてからベッドの上に移動した。
ベッドの上に足を投げ出すように座り、壁にもたれかかるけど、左足の靴下が少し薄くなっていて親指の爪が透けて見えることに気付き、慌てて膝を抱えるように座り直して、足を隠した。