真相-3
「……この距離を一瞬かよ……」
スランは目を細めて対岸を眺める。
暗殺者だから勿論、夜目は効く。
それでも対岸まで2キロぐらいあるので、木が揺れてるなぁ〜ぐらいしか分からない。
その木が大きく揺れたと思ったら、背後でズンッと大きな音がした。
振り向くとゼインがお座りの体制で、得意気に尻尾をパッサパッサと振っている。
「これなら計画も立て易いな」
魔物形態ならビアズリーまでは直ぐだ。
スランはニヤリと笑いつつ、頭の中をフル回転させるのだった。
それから、普通なら馬で2日かかる距離を1日で移動したゼインとスラン。
ケイとポロはカイザスの国境にある山小屋で待機。
今頃、カイザスから借りた2頭の馬でえっちらおっちら向かっている筈だ。
そして、ゼインとスランはビアズリーの街を1日かけて探索した後、宿屋で最終打ち合わせをしていた。
「シグナーのアジトは繁華街の、ここの奥にある……って、こら」
正確にはしていなかったらしい……何故ならゼインがソワソワと落ち着かないからだ。
人間形態に戻ってるクセに頭から獣耳が出てるし、ズボンを突き破ってまでお尻には尻尾。
耳は一定の方向に向いたままで、尻尾は苛々と揺れている。
「聞け、チビ」
ソファーに座っていたスランは、横で揺れる尻尾を掴んでギュッと引っ張った。
「ギャウン」
驚いたゼインは犬みたいに鳴いてスランを見る。
「気になるのは分かるが、今はこっちに集中しろ。いいな?」
昔、こうやって鷹を躾たなあ……と思い出しながらスランはゼインに言い聞かせる。
ゼインは獣耳をへたんと垂らして項垂れた。
「鞭の音……アイツの声……血の臭い……」
ゼインの耳には全て聞こえているし、臭いも届いている。
痛そうだし、腹が立つし……何よりこっちが泣きそうだ。
全部、自分が悪いのだ……何も聞かずに一緒に居てくれるカリーに甘えた結果がこれ。
「お互い様だっつうの。暗殺者だってバレたくなかったカリオペに、魔物だって知られたくなかったお前……まあ、実際知られたって大した事無いってのもお互い様」
俺らだって大して驚いて無いし、引いてもいないだろ?とスランはゼインの尻尾を弄りながら言う。
尻尾を触られるとむずむずするのに気づいたゼインは、尻尾を動かしてスランの手から逃げた。