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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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24 輝く石の国-6

 二人は舞踏会用の礼服姿だった。それぞれ黒と銀という色も相変わらずだ。
 動揺しているせいか、そんなどうでも良いことにばかり気がいってしまう。

「カティヤ?」

 子どものように植え込みから飛び出た竜姫に、アレシュが魔眼を丸くする。

「あ、あ、あれしゅさま!?し、ししし失礼致しました!」

 かなり恥ずかしいシーンを目撃され、カティヤの顔が真っ赤になる。兜と槍を足元に置き、あわてて敬礼した。
 アレシュが必死で笑いをこらえており、穴でも掘って隠れたい。

「お久しぶりにございます」

 エリアスもあいかわらず優雅な仕草で腰を折り一礼する。

「は、はい……エリアスさまもお元気そうで……」

 しどろもどろで返礼しながら、恐る恐る尋ねた。

「なぜ、このような場所に?こちらは兵の宿舎ですが」

 客間なら本殿にあるはずだ。

「ああ、やっぱり……」

 アレシュが宿舎をふりあおぎ、続いてエリアスを睨む。

「見学予定の緊急変更なんて、嘘をついたな」

「はい、申し訳ございません」

 黒髪の側近は、主君の不機嫌な視線を無視し、平然と答えた。

「カティヤさまにお会いしたかったので、侍女の方々にお尋ねしたところ、ご親切にここを教えてくださいました」

「そ……そうでしたか……」

 美貌と優雅な物腰を武器に、エリアスが侍女達を骨抜きにする様子が、ありあり目に浮かぶ。
 騎士団のスケジュールや宿舎をホイホイ教えるのは感心しないが、相手が悪すぎるといった所だろう……。
 しかし続くエリアスの発言に、その小さな呆れも吹き飛んだ。

「カティヤさま。魔眼暴走を抑えて頂けませんでしょうか?」

「え!?」

「!?」

 唖然とする当人同士を前に、エリアスはソツない笑みを崩さない。

「明日の夜か、遅くとも明後日までに、アレシュさまの魔眼暴走が起こります」

「まて、エリアス!」

 アレシュが慌てて割り入った。

「その前に一旦、ゼノへ魔眼で帰ればいいだけだ!ここまでの道のりも、そうやってきただろう!」

「ええ。騎馬の道中なら、それで構いませんでした。手間をおしまず行き来を繰り返せばやりすごせます。しかし、こちらの王都に滞在する期間はそうはいきません」

 エリアスは至極冷静な視線を主君へ向ける。

「封じ石で吸い取らせる方法は、アレシュさまの身体に負荷がかかります。ゼノから戻れるのは、早くとも半日後。その間の滞在スケジュールが困るのです」

「……」

 カティヤは思わず息を飲む。
 今、改めてやっと気付いた。
 カティヤが思うよりずっとずっと、アレシュの人生は楽でないのだ。外出一つにも苦労するくらい。
 強大な力を与える魔眼は、同じくらいアレシュを苦しめる諸刃の剣だ。

 気まずそうな顔で、アレシュが頭をかく。

「その間の事なら、ユハ王に説明して調整を……」

「――アレシュさま」

 チロリと、主君へ向けるエリアスの視線が冷たくなった。

「今回の訪問は非常に重要な事ばかりです。意地のために遅らせるのは、いかがでしょう」

「それは……」

 側近の正論に対し、明らかに不利となっているアレシュへ、とっさに問いかけた。

「アレシュさま、なぜ躊躇われるのです!?」

 カティヤが抱き締めれば、たったそれだけで済むのだ。
 苦しむ事も寝込む事もなく、即座に魔力はカティヤが無害に変えられる。

「……勝手すぎるだろう」

 不貞腐れた顔でソッポを向き、アレシュが呟く。

「カティヤの生活をかき乱し、結局は帰れと送り返したんだ。このうえ、都合の良い時だけ利用できるものか」

「あ……」

 思いも寄らなかった返答に驚愕したが、それには賛同できなかった。

「私とて、昨夜は自分勝手な理由でお呼びたていたしました。それに……っ!」

 そのまま飛び出そうになった言葉は、臆病な喉に張り付き消えてしまう……。

「それに?」

 キョトンとアレシュに尋ねられ、顔中が真っ赤になる。

「……わ、私は…………皆が、出来るかぎりの事をするのが一番だと……」

 酷いエゴを自覚した。
 アレシュが好きだ、愛している。
 魔眼王子を苦しみから救う手助けが、世界中で自分にしか出来ないのが嬉しい。

 赤面したアレシュが、押し黙る。

「カティヤさまでしたら、アレシュさまを説得して下さると、期待しておりました」

 エリアスが優しく微笑み、自分の唇にひとさし指をそっとあてた。
 その仕草で、つい声が大きくなっていたのに気づき、冷や汗が出る。
 辺りは無人で、夜中の宿舎棟は静まりかえっているが、誰かが窓を開けたらすぐ見えるのだ。

「誤解されたくはないでしょうから、結界を張ります。周囲からは見えないのでご安心を」

 エリアスが小さな魔石をいくつかポケットから取り出し、アレシュとカティヤの周りに並べていく。
 続けて結界の呪文を唱えた。
 こんな高度な魔法を目の辺りにしたのは、カティヤは初めてだった。

 結界の中で、アレシュの身体を抱き締める。
 夜会服の腕が、軍服の背に回され、抱き締められた。
 流れ込んでくる不思議な暖かさに、頬が緩む。
 抱き締めあう力が、互いに強くなる。
 いつのまにか上を向き、アレシュと唇を合わせていた。

 あまりにも自然で、幸せすぎて、トラウマも互いの立場も、何もかも忘れていた。
 


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