返却-9
そんな自分のずるさに心底うんざりしてくる。
大事なことは言葉にしないと伝わらないのに、口に出す勇気もない卑怯な私は小さな声で、
「……人の気持ちも知らないで」
と、吐き捨てるように呟いた。
ポカンと固まっている彼の表情に、自分が今何を言ってしまったのか我に返り、慌てて口元を手で覆い隠す。
何言っちゃってんの、私。
「おい……、何かあったのか?」
土橋くんは心配そうな顔で私を見つめていた。
そのまっすぐな眼差しが、自分の醜さを見透かしているような気がして、私はいたたまれなくなって、
「ごめん……。帰るね」
とだけ言って、カバンを乱暴につかむと、固まったままの土橋くんを尻目に、逃げるように教室から出て行った。