恋とは何なのだろうか-4
「博次、教育実習生さ、可愛いかどうか昼飯賭けねえ?」
桝谷がクルンと後ろを振り返って俺に下卑た笑みを見せてきた。
「そんなん、ブスに決まってんじゃねえか。中学の時の教育実習生なんてそりゃあひでえもんが来たんだぞ」
俺が今まで遭遇してきた教育実習生は、勉強しか取り柄のないブスだったり、並レベルでもひどく地味でダサかったりと、ハズレしかあたったことがなかった。
修学旅行のバスの中で、俺が乗るバス担当のバスガイドは大抵ハズレであったし、こういう場に現れる女はブスが相場である、とまるでマーフィーの法則にでもあてはまりそうな俺なりのジンクス故に、そう断言した。
「じゃあオレは可愛いに賭けるわ」
「はいはい、んじゃ学食のトンカツ定食よろしくな」
俺は頬杖をつきながら、犬でも振り払うように桝谷に向けてシッシッと手を振り払った。
同時に寺久保がやや声のトーンを上げて
「では、村主先生お入り下さい!」
と引き戸の向こうにいるであろう人物に向かって手招きをした。
カラカラと控えめな音を立てて引き戸が開かれていく、その瞬間。
俺は頬杖をついていた手を、顔からほんの少し離した。
何度か目をパチパチしてから、その後はまるで瞬きを忘れたように大きく目を見開いたまま固まってしまう。
アホみたいに開いた口とセットになった俺の顔はさぞかし間抜けに映っていただろう。
しかしその瞬間は、確かに俺の胸はドキッと高鳴っていたのだった。
「おい、博次!! 賭けはオレの勝ちだ。メッチャ可愛いじゃんか、トンカツ定食ゲーット!!」
ワーッと湧き上がる歓声と、スタンディングオベーションのように割れんばかりの拍手が教室内を包む中、桝谷がしてやったり顔をこちらに向ける。
しかし、そんな桝谷の憎たらしい顔もすでに目に入らなかった。
「……初めまして、今日から二週間、このクラスで教育実習をさせていただく村主雅(すぐりみやび)と言います。
立派な先生を目指して頑張りますのでどうかよろしくお願いします」
か細く高い声を出してペコリと頭を下げる彼女に、さらに大きな拍手が浴びせられる。
割れんばかりの拍手の中で、俺だけが時間が止まったかのように固まって動けなかった。