恋とは何なのだろうか-3
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「うぉーい、お前ら席つけえ」
かったるそうな間延びした声を上げながら、担任の寺久保(てらくぼ)が教室に入って来た。
寝癖がピョンと跳ねた、やる気のない態度のコイツは、教師よりもヤクザのような強面だから、途端に教室内に緊張感が走る。
さっきまで管を巻いたみたいになってた桝谷も慌てて前を向いて、姿勢を正した。
しかし、緊迫した俺達とは対照的に、寺久保はやけにニヤニヤ何か言いたげだ。
コイツはハッキリ言ってヤクザだけど、根は明るくてノリがいい男なんだと思う。
朝のSHRを始めるべく、クラス委員が号令をかけ終わると、寺久保はヤニで黄ばんだ歯でニッと笑った。
「えー、先週も話をしたが、今日からウチのクラスに二週間、教育実習生が来る。しかも女だ!」
ざわめき出すクラスメート達。呆気に取られる俺。
そんな話あったのか?
俺は、両手を挙げてヒャッホーとはしゃぐ桝谷の座る椅子をガツンと蹴り上げた。
「何すんだよ」
「教育実習生って、俺聞いてねえぞ」
「先週言ってただろうが。あ、お前遅刻してたんだっけ」
そう言われて、途端に顔が赤くなる。
確かに先週、遅刻した日があった。
その理由と言うのが、壬生柚香をオカズにしたあの日以来、俺は何かに取り憑かれたようにオナニー狂いになっていて、遅刻したと言う日も起き抜けに一発マスターベーションに夢中になりすぎていたからなのだ。
それを思い出した俺は、思わず俯いた。
「えー、教育実習生とは言っても、お前らにしてみれば先生であることには変わらないし、この学校を卒業した先輩でもあるから、きちんと敬意を払って接するように」
そんな寺久保の教師としての威厳を持った発言も、教育実習生という平凡な毎日にスパイスを与えてくれる新しい刺激の前には無力だったようで、さっきまでの緊迫感は一転して、お祭り騒ぎのようにざわついていた。