解放-6
「ゼインが……ゼロ…なの?」
膝に置いたポロの両手がカタカタ震える。
ポロの飼い主は『ゼロ』を作ろうとしていた。
そのゼロが……今、目の前に居る。
「……ごめん……殺したつもりだった……施設も壊したつもりだったんだ」
なのに、何故か生きていたあの男は、再び実験を繰り返していたのだ。
「ちゃんと殺してれば……ポロがこんな酷い目に合う事はなかったんだ……」
ゼインは再び手を組んで額に当てる。
その手はギリギリと強く握られ、細かく震えていた。
ポロはその手を両手で包み、ゼインと同じように額に当てる。
そのポロも細かく震えていた。
「ゼインのせいじゃない……ゼインのせいじゃないよ……だって……ゼイン達に会えたのは……私にとって素晴らしい事だから」
だから自分を責めないで欲しい……それ以上のものをくれたから。
それを聞いてもゼインの震えは治まらなかった。
「……お前も、奴の血を飲んだんだな?」
ゼインは顔を少し上げてポロの手首の枷に触れた。
「赤黒い液体がそうなら……飲んだ」
「どれぐらい?」
「量はこれ位の小瓶に半分だった。それを1回だけ」
それを聞いたゼインは、ほぅっと安堵のため息をつき、手の震えも治まる。
「なら、多分まだ大丈夫だ」
「何が?」
「まだ、人間だって事」
ゼインがあの施設を壊した時、色んな実験を目にした。
それで分かった事は、あの赤黒い液体が奴の体液でそれには卵が仕込まれているという事。
「た、卵?!」
「卵っつうか核だな。しかも、魔物の」
まずは奴の体液で魔物への耐性をつける。
その後、体内に卵を植え付け卵を孵化させるのだ。
孵化前に魔物の力に耐えきれずに人間が死ぬと、魔物は身体を突き破って出てくるがいずれ腐れる。
生きた人間の体内で孵化した魔物は、人間を内側からゆっくりと喰いつくし強力な魔物に変貌する。
「……筈なんだが、俺は逆に魔物を吸収しちまったみたいなんだな」
そう言ったゼインはポロから身体を離して、右腕を自分達の間に出した。
その腕からざわっと灰色の毛が生えて、黒く変色した爪がぎゅいっと伸びる。
「ひっ」
「……これは一部だけど、全身変わる事も出来る……見た目は人間でも、俺は魔物だよ」
ポロはガタガタ震える自分の身体を抱いた。