解放-19
『グオウッ』
獣はひと声鳴いて再び飛び上がった。
衝撃で屋根からバラバラと瓦礫が落ちてくるのを腕で庇いながら、頭領は呆然とする。
(カリオペ……なのか?)
『ログの黒い鷹』に会ったと言っていた……その『黒い鷹』がアジトに来て不審な行動を取った……結果、2人とも魔物に喰われた。
それが全て計画だとしたら……?
「ブハッあはははははっ」
突然吹き出して大笑いし始めた頭領に、メンバー達は不安にかられる。
アジトを滅茶苦茶にされて、気でも狂ったかと思ったのだ。
「いや……スマン……見事にヤられたと思ったら、逆に可笑しくてな……」
頭領は両手を腰に当てて肩を震わせる。
「追いやすか?」
「いや……もう良い……」
頭領は頭を掻いて瓦礫と化したアジトに振り向いた。
(連れ戻す度にこれじゃシグナー壊滅だ)
「生存者は必要なもんだけ持ってバラけろ。各地のメンバーに伝令だ。『本部を北に移す』」
頭領はメンバーに命令を下すと、自らもアジトの中に戻る。
(……じゃあな……カリオペ)
もう二度と会う事もないだろう愛娘の幸せを、頭領は父親の気持ちで月に祈った。
ビアズリーの森を1匹の獣が疾走する。
風のように速く駆ける獣は、月の光を反射して時折光っていた。
シグナーのアジトから通常なら馬で1日かかる位置にある山小屋まで来ると、獣は足を止める。
ザザザッ
「……寒ぅ〜…」
獣の鬣の中から這い出したカリーは、自分の肩を抱いてブルッと震えた。
『グル』
獣は文句言うな、と言いた気に喉を鳴らす。
「だって寒いもんは寒……」
「カリー!!」
頬を膨らませて言い返そうとしたカリーのセリフを、聞いた事の無い可愛い声が遮った。
「え?!」
小屋から転がる勢いで出てきたポロは、そのままカリーに飛び付く。
「良かった!生きてた……カリー」
カリーの豊満な胸に顔を埋めたポロは、涙を流しながら安堵の声をあげる。