思い出-4
◇ ◇ ◇
「……それってさ」
沙織が上目遣いで、何やら意味深な笑みを浮かべてこちらを見つめて来た。
「歩仁内くんはきっと、桃子のことが好きなんだよ」
そして沙織はワクワクした視線を、彼女の隣に座る大山くんにも投げかけた。
そんな沙織に、私が否定できずにいたのは、自分でもなんとなくそんな気がしてたから。
うぬぼれるわけじゃないけど、歩仁内くんは本当に私によく話しかけてくるし、土橋くんにわざと見せつけるような馴れ馴れしいスキンシップもしょっちゅうされていると、いくら鈍感な私でも“もしかしたら”って思うようになってしまった。
でも、沙織に“私ももしかしたらそう思う”とは、あまりにも図々し過ぎる気がして、結局否定もできずに黙り込むだけだった。
私と沙織、大山くんの三人は、補習が終わってから学校の近くにある、安くて美味い、古びたラーメン屋にいた。
テーブル席には沙織と大山くんが並んで座り、私はその向かいに座ってこの店一番の人気メニューである醤油ラーメンを注文した。
そしてラーメンが来るまでの間、私は先ほどの補習での出来事を話していたのである。
もっとも、土橋くんのことには触れることはしなかったけど。
「……石澤さんは、もし歩仁内に告られたらどうすんの?」
さっきからいたずらっぽくにやけている沙織とは対照的に、やや神妙な様子の大山くんが静かに口を開いた。
「そんなことあるわけないじゃん」
私は動揺を悟られないように笑い飛ばしたけど、一向に真顔のままの大山くんは、
「ないなんて言い切れる? わざわざ修の前で仲良くしてきてさ。あてつけ以外の何者でもないじゃん」
と、詰め寄った。
やはり彼はいつも土橋くんと一緒にいるだけあって、彼の目につく所での歩仁内くんの振る舞いにも既に気付いているようだった。
私は二人から目を逸らして、汗をかいているお冷やを一口飲んでから、下を向いた。
歩仁内くんには土橋くんと絶交する手段として、歩仁内くんのことを好きだと嘘をついたことを正直に言ってある。
歩仁内くんはびっくりした様子だったけど、“気にしなくていい”と笑っていたので、その時は安心していた。
でも、その後の歩仁内くんの態度や行動を見ていると、やはり私に何らかの企みがあるのでは、という疑問が強くなるばかり。
歩仁内くんが以前言っていた、“好きな娘が振られるのを待つ”作戦を聞いてしまったから余計にそう思うのかもしれない。
「桃子の気持ちはどうなの?」
ニヤニヤしていた沙織も、大山くんの真面目な顔を見たせいか、少し心配そうな顔になっていた。