☆-1
あと一週間で実習だ…。
5月10日、陽向はソファーでゴロゴロしながらテレビを眺めていた。
あの日以来大きな発作は起きておらず、たまに明け方に軽い喘鳴があるくらいだった。
「タラタラしてねーで勉強しろよ」
湊がカーペットに腰を降ろし、リモコンでテレビを消す。
「あっ!見てたのにー!消さないでよっ!」
湊からリモコンを奪おうとすると、スッと遠ざけられる代わりにプリントを顔面に押し付けられた。
「ぎゃ!!!」
「これやんなきゃなんだろ?早くやれよ。どーせギリギリまで残しといて前日になって焦ってやって寝坊しそーになるのが目に見えるんですけど」
120%当たるであろう予想に腹が立つ。
陽向は湊の腕をバシッとはたいてプリントを奪った。
「むかつくんだけどその言い方!」
「今までのお前見てたら想像つくわ」
湊は「は」と鼻で笑った。
「バカ!アホ!ほんとむかつく!」
腹パンでも喰らわしてやろうと片手を上げると、その手をグッと掴まれ、唇にちゅっと可愛らしいキスをされた。
「ば…ばかっ!なんなのいきなり…もー…」
「頑張れひな坊」
湊はいたずらっ子のように右の口角をキュッと上げると、陽向の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
陽向は真っ赤にした顔を背け、カーペットに座ってプリントに目を落とした。
やる気が失せるこの問題の多さ。
空欄ありすぎで、もはや何を問うているのか意味不明。
「やだー。もーわかんないぃー」
10分後、陽向は唸り声を上げてテーブルに突っ伏した。
一応、半分は解けた。
大きなため息をついた時、目の前に陽向のお気に入りのマグカップが置かれた。
ウッドストックが描かれている真っ黄色のやつだ。
「集中しなさーい」
湊がコーヒーを淹れてくれたのだ。
ふわふわとコーヒーの香りが漂う。
「明日にする…」
「なんでよ」
「もう無理」
「せっかくコーヒー淹れてやったのに」
「これは飲む」
マグカップを手に取り、一口すする。
「おいし」
陽向がニコッと笑うと湊の顔も綻んだ。
「あ」
陽向の視線が湊のマグカップに移る。
取っ手にペンギンが乗っかっているのが特徴で、その他は白といったシンプルなものだ。
「それ、あたしのお気に入りのマグカップ」
「え?その黄色いやつじゃねーの?」
「これも好きだけど、そのペンギンのやつも好きなの。可愛いでしょ?」
陽向はペンギンを指して言った。
「でも今日は湊に譲ってあげる」
「どーも」
子供っぽい発言に、湊は笑ってしまった。
「ホントお前ガキみてー」
「ガキじゃないってば」
テーブルにマグカップを置いて伸びをすると後ろから湊に抱きつかれた。
「やわらけー」
すごくドキドキしてしまう。
「実習始まったら、こんなことできんのも少なくなんのかな」
湊の言葉に少し寂しくなり、陽向は黙った。
「休みは土日だけ?」
「うん」
「8月までだっけ?」
「うん」
「うんしか言わねーな」
「うん…。あ…」
湊は笑いながら陽向の耳を甘噛みした。
ピクンと身体が反応する。
「…っあ」
「こんな可愛い看護師いたら、襲いたくなりそー」
甘い吐息が耳にかかる。
湊はゆっくりと手を滑らせ、優しく胸を揉みしだいた。
首筋を、柔らかい唇が這っていく。
舌でツーッとなぞられる。
「は…あぁ…ダメ…それ…」
「ダメなの?じゃあこれは?」
今度は耳の中に舌を入れられる。
「ひゃっ!…あ!も、もっとダメっ!」
「やなの?」
「や…やだっ!…んんっ」
「やだっつっても、やめねーけど」
湊は楽しそうに言うとシャツの下から手を忍ばせ、下着をずらして直に胸を揉み始めた。
触れるか触れないかくらいの手つきで、乳首を指が掠める。
その動きがもどかしい。
陽向は下唇を噛んで顔を赤くした。
「陽向。こっち向いて」
「…んぅ」
言われた通りにした瞬間、唇を塞がれる。
引き合うように自然と舌が絡み合う。
「はぁ…ぁ…」
脳が蕩けそうだ。
目を閉じて、キスに夢中になる。
温かい湊の吐息が全身に染み渡っていく…。
唇が離れると、湊はクスッと笑った。
「風呂入るか」
「お先にどーぞ」
「一緒に入りたい」
「え…や、やだよ」
「なんで?」
「恥ずかしいから…」
湊は考えた後「じゃーお前先入ってこいよ」とあっさり諦めた。
「とか言って後から入ってくるんでしょ!」
「ないない」
陽向は「来ないでね!絶対!」と念を押してバスルームへと向かった。
着替えとバスタオルを準備し、シャワーのコックを捻る。
すると後ろからバンッ!と音がしたかと思うと、湊に後ろから抱き締められた。
「ちょっ…ぃあ!」
思い切り胸を揉みしだかれる。
「うそつき!」
「嘘つきで結構」
湊はケラケラ笑いながらボディーソープを手に取り、艶かしい手つきで陽向の身体を洗い始めた。
微妙なところを掠められるたびに声が漏れそうになる。
シャワーで泡を洗い流した後、「こっちもお願い」と言われる。
陽向はブツブツ文句を言いながら、同じように上から順に湊の身体を洗った。
綺麗な腹筋…。
ゆっくり撫で、下半身に辿り着く。
半立ちになったものを見て、湊の目を見る。
「ちゃんと洗って」
「……」
陽向は無言でそれをさっと洗い、足までしっかり洗った後シャワーで泡を落とした。
バスルームから出ると、湊がバスタオルで頭から包んでくれた。
わしゃわしゃと髪を拭かれる。
陽向が楽しそうな笑い声を上げると、つられて湊も笑った。
バスタオルから頭だけ出す。
「てるてる坊主みてーだな」
「明日晴れるよ」
「晴れなかったらりんごジュースおごって」
「やだ」
二人で笑い合い、そのまま唇を重ねた。