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It's
【ラブコメ 官能小説】

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-7

「ひなちゃん」
「ん…」
セックスの後、陽向がぐったりして早々に眠ってしまうのはいつものことだ。
あの後30分くらい格闘し、無理矢理もう一度お風呂に入った。
陽向は半分眠っていた。
今も、隣で眠そうにしている。
「てか…キスマーク付けるとか、ありえないんだけど…」
「悪い」
「またあさってから実習なのに…どーすれ……」
怒りも眠気には敵わないようだ。
「どーすれってなんだよ」
湊は鼻で笑い、陽向のほっぺたをつねった。
「仕返し…するもんね…」
本当はキスマークなんて付けるつもりはなかった。
湊もそういうのは嫌いなのだが、さっきは興奮しすぎて勢い余って付けてしまったのだ。
「じゃあお前もやってみろよ」
湊が言うと、陽向はゆっくり目を開き、湊の首筋に唇を付けた。
柔らかい感触に、再び興奮しそうになる。
ちゅぅぅぅと音がするが、ちゃんと出来ていなさそうだ。
「あれ…ついてない」
「へたくそ」
「うるさいな…。あーもーほんとありえない…」
陽向はくるっと背を向けてしまった。
すかさず後ろから抱きつく。
「いやっ!鬼!悪魔!アホ!」
「なんだそれ。こっち向いてひな坊」
「その呼び方いや」
「じゃあひなちゃん」
「それもいやだ」
「陽向」
陽向がこちらを向く。
前から優しく抱き締めると、髪からシャンプーのいい匂いがふわっと鼻腔を刺激した。
胸を軽く叩かれる。
陽向が湊を見上げる。
ドキッとするような、愛らしい黒目がちのおっきな目。
「目腫れてる」
「明日には、なおるかな?」
陽向は小さな両手で目を隠して言った。
「もっとヒドくなってそー」
「湊のせいだから」
「なんで俺のせいなんだよ」
鼻で笑い、ゆっくりと髪を撫でてやる。
気付いたら陽向はスースーと寝息を立てていた。
「お疲れ様、陽向」

翌朝、二人は窓を開け放ち、6月の風を感じながらゆったりしていた。
陽向はソファーに寝転がりながら、湊はカーペットに座りながらテレビを見ていた。
「もう6月だね」
「そーだな」
「いっぱい雨降るかな?」
「降るんじゃねーの?6月だし」
「困っちまうなー」
くだらない会話をしていると、背中にゾクゾクした感覚が走った。
「くすぐってーな。何してんの?」
「湊のシャツの模様なぞってるの」
「暇人だな。勉強しろ」
「いや」
「お前の仕事は勉強だろーが」
「……」
「聞いてんの?」
陽向を見ると、「じゃああたしのお願いきいて…」と呟いた。
「なんですか?」
「ちゃんと勉強するから……チューして…」
頬を赤らめる陽向に、湊は爆笑した。
改まって言うほどのことでもないのに、わざわざ言ってくるとは。
ちょっと嬉しくなる。
「そんぐらい、いつでもするっつーの」
陽向の唇を自分の唇で軽く挟む。
唇が離れると、陽向はヘヘッと嬉しそうに照れ笑いした。
湊の首筋に腕をまわして、力を込める。
「甘えんぼ」
「いーの」
「勉強すんじゃねーの?」
「あと5分だけ…」
耳元で聞こえる愛おしい声。
5分と言わず、10分でも20分でもこうしていたい。
栗色の髪を撫でると、陽向は無邪気な笑顔を見せ、「猫になった気分」と言った。
「猫ってかリスだな」
「あはははは。どの辺が?」
「前歯とか」
「それ気にしてるのにっ!なんでふたつだけちょっと飛び出したかね…」
陽向は笑うとちょこんとふたつの小さな前歯が飛び出す。
密かにそこが可愛いと思っていたのだが、気にしていたらしい。
でも今「俺はそれ好きだけどね」なんて言ったところで「湊が言うと嘘っぽく聞こえるんだけど」と絶対に言われるため、言ってやらない。
「なんでニヤニヤしてんの!」
「してねーよ。ほれ、あとちょっと頑張れ」
湊がテーブルにやりかけのプリントを広げると、陽向はぶつぶつ文句を言いながらシャーペンを握りしめた。
ソファーに寝転がり、陽向の後姿を見つめる。
ちっちゃい背中。
外に出ないからって、少し寝癖が立った栗色のショートカット。
「あ、そーだ!」
陽向は突然そう言うとファイルを漁り、オレンジ色の何かを取り出した。
「患者さんがくれたんだ。あたしはオレンジが似合うって言ってくれたの」
お世辞でも上手いとは言えないその歪な折り鶴を見て、陽向は嬉しそうにしている。
陽向は、頭は良い方ではないし、要領だってそんなに良くなくていつもギリギリまで課題は残すし、ねぼすけで先生によく怒られている。
でも、患者さんに対する思いは誰にも負けないんだろうな。
きっと、この鶴をくれた患者さんは、陽向の笑顔を見てあの色を選んだのだろう。
毎日ヘトヘトになって帰って来ているのだろうけど、こうして一つでも嬉しい事があれば、人間なんとかやっていけるものだ。
8月まで続く実習が、どうか辛いだけの日々じゃありませんように。
陽向なら、きっとその笑顔で乗り切れるはずだ。


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