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It's
【ラブコメ 官能小説】

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-5

金曜日、午後のカンファレンスを終えて、それぞれ患者さんの元へ挨拶に向かった。
陽向も大橋さんのところに向かうと、珍しく車椅子に乗り一生懸命何かをしているところだった。
「大橋さん!」
呼びかけると、大橋さんはゆっくりこちらを向き、ぎこちない笑みを見せてくれた。
「今日はありがとうございました。また来週来ますね」
「そうなの?もう帰るの?」
大橋さんは寂しそうに小さな声でそう言うと「これ…」と言って陽向に折り紙で折った歪な形の鶴を差し出した。
テーブルの上には、色とりどりの折り紙で折られた鶴が散乱していた。
「今日、リハビリさんに教えてもらったの」
「わー!可愛い!上手ですね!」
「風間さんは、だいだい色が似合うと思って、この色にしたのよ」
「えっ?」
「こんなんだけど、持って帰って。わたしの気持ち」
「ありがとうございます!大事にしますね」
素直に嬉しかった。
陽向はだいだい色の鶴がしわくちゃにならないように、大事に大事にファイルに挟んだ。

今日は湊が来て、手料理を振舞ってやると上から目線で偉そうに言っていた。
「ヒナちゃん、なんか嬉しそうだね」
帰り道、電車で優菜に言われる。
気付かないうちに顔に出ていたようだ。
「へっ?そう?」
「うん。顔がにやけてるよ」
「うそだー!」
陽向はニヤニヤ顔を更にニヤニヤさせて言った。
「彼氏と会うの?」
「えっ…あ…うん、二週間振りくらいに」
「だからかぁー。彼氏って、あの五十嵐くんだよね?」
あの五十嵐くんって言われるほど彼の名は浸透しているらしい。
陽向は「はは…まーね…」と言葉を濁した。
なんだか言いづらいが、もうみんな知ってしまっている。
「五十嵐くんとヒナちゃん、いつも言い合いばっかしてたから、意外だったなー」
「んー、今も言い合いばっかだよ」
「あははっ!でも羨ましいなぁ、そーゆーの」
車内で湊の話をする。
変な光景だ。
優菜は湊と喋ったこともなければ、関わりすらも全くないのに。
きっと、湊は優菜のことを知らないんだろうな。
最寄りの駅に着き、優菜に別れを告げて、陽向は早足で家に向かった。
ワクワクしながら帰宅すると、美味しそうな匂いがふわっと鼻を掠めた。
バタバタと廊下を駆け、リビングのドアを開ける。
「湊!」
「おー。おかえり」
久しぶりに湊の顔を見た。
「お前、俺がいると全然勉強進まねーんだもん」と言って、会うのは休みの前日と決めていたのだ。
それも、二週間置き。
なぜかと聞いたら、その方が嬉しさ倍増だろ?とあの笑顔で言われたのだ。
うん、としか言えなかった。
今日がその待ちに待った日だ。
陽向はキッチンに立つ湊の背中に抱きついた。
「なんだよ」
とか言う湊の声は嬉しそうだ。
「湊」
「ん?」
「来てくれてありがと」
陽向が言うと、湊は陽向のこめかみに手を添えて顔を近付けた。
ドキドキする。
ニッと笑われ、顔が離れる。
「後でな」
キスしてくれると思ったのにな。
背中を軽く叩き、またしがみつく。
「なーに。やりづれーから向こう行ってろ」
「いや」
「子供か」
「子供だもん」
「珍しく否定しねーのな」
湊は笑うと「できたぞ」と言って陽向の頭を撫でた。
目の前には大好きなオムライスが二つ並んでいた。
「オムライスだー!」
「オムライス好きだろ?」
「うん!大好き!」
陽向はニコニコしながらテーブルにそれを持って行った。
続いて湊もスプーンを持ってやってくる。
目の前に座る湊の顔がなんだか懐かしいような気がして顔の筋肉が緩んでしまう。
「はい、いただきましょー」
「いただきまーす!」
仲良くオムライスを頬張る。
「んーっ!おいひー!」
お腹が空いていたので食が進む。
無言で完食し、お皿を片付けると、湊が洗ってくれた。
「向こう行って座ってな」
「ありがと」
陽向はお言葉に甘えてソファーに体育座りをしてテレビを眺めていた。
食べたら眠くなってきた…。
洗い物を終えた湊がやってきて、ウトウトする陽向の隣に座る。
「ひな坊」
「あいよー」
陽向の返事に湊が笑う。
「お疲れ?」
「ん…疲れた…」
優しく頭を撫でられる。
「おいで、陽向」
女を包み込むような声で呼ばれる。
陽向は湊の脚の間に座った。
前からぎゅっと抱き締められる。
久々に湊に包まれ、物凄い安堵感に支配される。
陽向はしばらく心地よさに浸っていた。
テレビの音がプツンと消える。
「こっち向いて」
見上げると、おでこにちゅっとキスをされた。
自然と笑みが零れてしまう。
湊に会いたかった。
毎日のように会っていたから、長い間会わなかった事は初めてだ。
忙しくてそれどころじゃなかったけど、やっぱり会えないのは寂しかった。
自分ってこんなに寂しがりやだったっけ、と疑うほどに…。
でも、この時間が終わってしまう時がまた来るのだ。
会いたいと言えばすぐ来てくれるかもしれないけど、今は我慢しなきゃいけないんだ…。
寂しいけど。
「湊…」
陽向は湊の胸に顔をうずめながら呟いた。
「んー?」
「寂しかったよ…」
どうしよう…。
湊を困らせたくないのに、涙が出てきちゃう。
我慢しなきゃ…。
「今ここにいんだから、寂しくねーだろ?」
「……」
言葉が出てこない。
陽向は涙を堪えるのに必死だった。
「おい、聞いてんのかよ」
湊に身体を引き離される。
顔が涙でぼやけて見える。
もう、我慢し切れないや。
ずっとこうして欲しかったんだもん…。
目に溜まった涙が、ポロリと零れ落ちて陽向の頬を伝った。


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