自己嫌悪-1
「ポロポロポロ!!」
ファンの城下町を、妙な言葉を連呼しながら走る男が居た。
彼の名前はケイ……魚屋の息子で、白いイルカ型の海の精霊クインを連れている城下町名物だ。
最近じゃ『精霊クインクッキー』や、『精霊人饅頭』なるものが土産物屋に並んでいたりする。
そんな事はどうでもいい。
ポロポロポロと呼ばれたポロ本人は、魚屋から顔を出して走ってくるケイを待つ。
メイド服に防水エプロン、長靴にゴム手袋、更に頭に白いイルカが乗っかっているという格好だが、柔らかいウェーブを描く銀髪とアイスブルーの瞳が印象的な可愛らしい娘だ。
15歳より上には到底見えない小柄な娘は、実のところ18歳。
年齢的には大人の女性である。
そんな事もどうでもいい。
問題は名前を連呼して走っているケイだ。
「ポロ!!」
ポロの目の前に辿り着いたケイは膝に両手をついて、前屈みで呼吸を整える。
〈はい。お帰りなさい〉
ポロは無表情でケイを迎え、冷たい水が入ったグラスを差し出した。
「うん。ただいま……あ、ありがと」
ポロが差し出したグラスを受け取ったケイは、お礼を言いつつ水を飲み干す。
〈配達は終わりましたか?〉
「終わったよ」
穏やかに会話しているように見えるが、ポロの声はケイとクインにしか聞こえていない。
傍目にはポロに向かって独り言を言っている怪しい男だ。
実は先日ひとつのベットで寝てから、ポロとの会話がスムーズになり、内なる思考もむやみに読まれる事もなくなった。
多分、ポロが心からケイを信頼したから会話がスムーズになり、ケイが眠れない間にこっそりと魔法の練習に励んだから思考が読まれ辛くなったのだろう。
『ク?(何を慌ててるのさ?)』
ポロの頭に乗っかっていたクインが、ケイの肩に移動しながら問いかける。
「そう、それ!」
どれ?とポロとクインは揃って首を傾げた。
「帰ってきた!!帰ってきたよっゼイン達!!」
〈本当ですか?!〉
「本当、本当!さっき火山の麓の街から来た商人が朝方、人影を見たって!!」
それを聞いたポロは、両手を組んで無表情な顔を明るくする。
離れて4日しかたっていないが、随分久しぶりな気がする。
『クウゥ(それを先に言いなよ)』
「悪かったよ。夕方には着くと思うからさ、ご馳走準備しようぜ!」
〈……はいっ〉
ケイの提案に、ポロは何を作ろうかと頭の中を回転させ、人生初のウキウキ気分を楽しんでいた。