自己嫌悪-10
「……カリー……」
「!!」
ゼインの小さな呟きにポロは身体を固くする。
今のひと言で全てが紛い物だと気づかされた。
スゥスゥと寝息をたて始めたゼインの腕を擦るポロの頬を涙が伝う。
結局、ポロではカリーの代わりになれない。
酔っ払ってなければポロを抱く事もなかった筈だ。
分かっていた……分かっていた事だがやはり哀しい。
哀しいのはゼインに愛されなかった事じゃない……『誰か』の代わりにしかなれない自分が哀しいのだ。
しかも、なりきれずに捨てられる。
『ゼロ』の代わりにも『カリー』の代わりにもなれない自分は何になるんだろう。
ポロは哀しい気持ちを抱えたまま、ゼインの腕の中で眠りに落ちていった。
火山に残って鷹の残骸を眺めていたスランは、鷹がいつも付けていた筒を見つけた。
それを拾って中身を確認すると、雇い主の小切手が入っていた。
それには相当な額の数字と、空欄に何やら書いてある。
ー生きていたら換金して下さいー
それを読んだスランはグシャっと小切手を握りしめた。
「……クソがっ……」
人を小馬鹿にした態度が気に食わない。
生きて戻って堂々と請求してやる。
スランは鷹の羽をひとつ拾い、革紐で結んで首にかけた。
「ついでにお前の敵も取ってくらぁ」
鷹の残骸に語りかけたスランは山を降りる。
半日ぐらい遅れたが、ゼイン達はまだ城下町に居る筈だ。
ゼインからあの男の情報を詳しく聞き出す為に、スランは下山を急いだ。
途中、休憩を入れつつ夜通し歩いて朝方に街に着く。
宿に行こうかと思ったが、多分、魚屋の方だろうなと予想してケイの家に向かった。
魚屋の前では開店準備をするケイの姿が見える。
「よお」
スランが声をかけると、ケイは飛び上がって驚き複雑な表情で振り向いた。
ケイはスランの事をすっかり忘れていたのだ。
「お、お帰り……お疲れさん」
勝手に気まずくなっているケイに首を傾げつつ、スランは2階の窓に目を向ける。
「チビ達居るか?」
「それーーっ!!」
スランの言葉を聞いたケイは、いきなりスランの両肩を掴んで大声をあげた。
「なんだなんだ?!」
スランはケイの剣幕に身体を反らせる。
「どぉなってんだよ?!ゼインはどんよりしてっし、カリーは父ちゃんと帰るし、ポロは帰って来ねえしっ!!」
まくし立てるケイの言葉を、スランは頭の中で繰り返す。
ゼインがどんよりしていたのはあの雇い主の事だろうが、カリーの父ちゃん?!
「父ちゃんって……カリーの父親が来たのか?!」
どういう事だ、と今度はスランがケイに掴みかかる。