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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第12話-18

「俺が大学で、しかも“隼リーグ”の1部に昇格したチームで野球をしてるって、現場監督と知り合いの営業さんが知ってさ。大学卒業したら、ここで働かないかって、声もかけてもらったんだ。その営業さんも、昔、“隼リーグ”で野球をしてた人らしくて」
 野球部での活動が、思いがけない就職活動につながり、それもまた“いい思い”のひとつだと、栄村はそう言って、彼らしい篤実な笑みを見せていた。
「内定が出るかどうかは、俺次第だけど」
「出るさ。栄村なら」
 気休めではなく、本気でそう思う。栄村の角の立たない性格と、よく利くその目端は、間違いなく営業に向いている。また、大学四年間を、曲がりなりにも“運動部”と並行させて過ごしてきた、心身両面のバイタリティも、彼を支えることだろう。
「っと、結構長くなっちまったな」
「そうだな。あがろう」
 20分は、湯に漬かっていただろうか。ざばり、と図ったように、同時に二人は湯船から身を上げて、足元に打ち水をしてから、脱衣所に戻った。
 湯冷めをしないように、バスタオルで念入りに身体を拭いて、申し訳程度に髪を梳きながらドライヤーを当てる。短髪の二人なので、すぐさま髪は乾き、身支度を整え終わると、そのまま男湯を出た。
「あれ? 帰らないのか?」
 バッグを片手に、出口に向かう栄村。一方、その場に留まる様子を見せた岡崎に、栄村はそれが気になって、思わず声をかけていた。
「あ、ああ、ちょっとな」
 岡崎が時計を見遣る。待ち合わせの“1時間”まで、10分を残していた。
「?」
「その、なんだ。連れを、待たせてるんだ」
「連れ? ……ああ、なるほど」
 この場で岡崎が待つ“連れ”といえば、女湯に入っているのがその相手に間違いない。そして、岡崎は、大学に進むと同時に、東海地域の大学で講師をしている母親の元を離れて、一人暮らしを始めたのを知っているから、その“連れ”がどういう相手なのか、栄村には容易に想像が出来た。
 そもそも、岡崎ほどの“デキる”男子に、彼女がいないわけがない、と栄村は思っている。
「悪い悪い。じゃ、俺は先に行くよ。彼女によろしく」
 完全に勘違いをしたまま、栄村が銭湯を去っていった。
「………」
 その勘違いを、強いて否定できなかった自分。それを、岡崎は、認めざるを得なかった。
「まーちゃん、待たした?」
「い、いや。大丈夫だ」
 ややあって、女湯から現れた清子。ジャージ姿とは言え、湯上りであることに変わりなく、妙な色気があるから困る。トレードマークの“三つ編”こそ、解かれたままだが、それがいっそう、清子の非日常を浮かび上がらせて、岡崎は、鼓動を早める自分を抑えるのに、精一杯になっていた。
「ほな、スーパー寄って、帰ろ?」
 そんな岡崎の心情を知らず、清子は無垢なものである。
「お、おう」
 早くも所帯じみた様子を見せている二人の姿を見れば、まさか、数時間前に十年ぶりに再会したばかりだとは思わないだろう。
 岡崎と清子が並んで外を出て行く様子を追いかける、番頭に立つ若い娘たちの羨ましげな視線が、それを物語っていた。


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