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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第12話-16


 清子が預けているという荷物を取り出すため、まずは城央駅のコインロッカーに向かう。中には大型と中型の、二つのバッグがあったので、岡崎は大型の方を、清子に有無を言わせず自ら持ち、そのまま、城東方面行きのバスに乗って、自分が住んでいるアパートまで清子を連れて行った。
「まーちゃん、変わってへんな」
「? なにが?」
「むっつりやけど、やさしーとこ」
 隣を歩く清子は、嬉しそうである。
 なにしろ、八年ぶりの再会であり、また、大きい方のバッグを何も言わず当たり前のように持って、清子が車道側を歩かないように、さりげなく気遣いをしている。
「清子も、まあ、変わってないな」
「えぇぇ。…あかんわ、まーちゃん。そこは、“キレイになったよ”とか、いってくれんとあかんとこやで!」
「………」
 本当は、そう言いたかったのだが、照れてしまったのだ。
 思い出の中にある少女の姿よりも、体つきがより女らしくなっているのは間違いなく、三つ編のおさげも、オーソドックスだった以前のそれとは少し違って、ウェーブを微妙にかけていて、それが女性としての可憐な装いとなって清子を魅力的に見せていた。
「その髪、自分でセットしてるのか?」
「そうや。この三つ編、ウチのトレードマークやから」
 肩にかかっている“三つ編”を、清子はぴょんぴょんと、何度もはためかせた。
「まーちゃんが、似合うって、言うてくれたからな」
「!」
 清子は、憶えていたのだ。リトルの頃に、赤茶けた跳ね髪を無造作にまとめていただけの清子が、戯れに三つ編にしてみた時の自分の第一声を…。
「“赤毛のアン”みたいやって、な」
 野球少年であると同時に、母親の影響を受けて、文学少年でもあった岡崎は、愛読していた『赤毛のアン』(著:モンゴメリ)から、そのまま飛び出てきたような少女の清子に、大きな関心を持ったのだ。当時から既に、他人と一線を引くことが多かった彼が、リトルにいた仲間たちに胸襟を開いたのも、そんな清子の存在が大きかった。
「………」
「まーちゃん?」
「あ、ああ」
 感傷に胸を打たれ、岡崎は、清子に呼ばれるまで自分が彼女のことを見つめていたことに気がつかなかった。
「あ、すまん」
 そして、自分のアパートを二区画ほど行過ぎていたことも…。
 回れ右で来た道を少し戻り、ようやくアパートにたどり着いた二人は、築年数が少しばかり経っている古びた様子ではあるが、除草や舗装の管理が行き届いている入り口の階段周りをそのまま通り抜け、一階の一番奥にある部屋へと、入っていった。
「お、なかなかキレイにしとるやん」
 男の一人暮らしにしては、キッチンと玄関が、さっぱりしていた。絵にかいたような、床敷きの1LDKで、ベッドを置かない主義らしく、居間には折りたたまれた布団が片隅に鎮座していた。
「布団は、清子が使うといい。最近、干したばっかりだから、安心してくれ」
「まーちゃんは?」
「これがある」
 備え付けの物置から、腹筋を鍛えるときに使用する、折りたたみ式のマットを取り出した。洗い換え用のタオルケットもあるので、夏場の暑いこの季節だから、問題もない。
「浴室はセパレートだけど、近くに銭湯もある」
「ほな、銭湯いかへん?」
「だな」
 岡崎としては、色々な意味でその方がありがたい。
「あとちょっと、冷蔵庫が寂しくなってるから、買出しもしないとな…」
「そうや、まーちゃん。明日からゴハンは、ウチがつくるで」
「え」
「タダで、とは言わんって、いったやん。まーちゃんのゴハン、作らして。部屋の掃除も、洗濯もするで」
「お、おう……」
「泊めてくれるその間、ウチ、まーちゃんの“家政婦”さんに、なったるから」
 岡崎の動揺も気づかないまま、無邪気に言う清子であった。


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