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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第12話-10

「………」
「………」
 そんな二人のやりとりを、遠目に見ていたのは、結花と航である。
 航はいま、ピッチャーズ・マウンドを模した、盛り土の上に立っており、結花はというと、なんと、プロテクターとマスクを完備して、キャッチャーミットを手にしていた。
「吉川センパイ、なんか、鬼気迫ってるね」
「エラーの数を、気にしているんだろうな」
 吉川は確かに、練習試合を含めて、失策数はチームの中で最も多い。そのほとんどが、強い打球を弾いてしまったことによるものだったから、捕球力をつけるために、あのような“ハード・ノック”を自らに課すようにしているのだろう。
 打ち身は必須の過酷な練習で、前期日程の真っ最中では到底出来ないような猛特訓でもあった。
「わたしたちも、負けてらんないね」
「ああ」
 結花は、マスクを被り直す。
「じゃあ、あと20球。いってみよう!」
「わかった」
 言うや、ピッチャーズ・マウンドから離れて、ホームベースを見立てた白い木板を眼前に見ながらその場にしゃがみこむと、手にしたミットを構える結花であった。
 それを受けて、航がセットポジションを取る。やにわ、その足が上がり、右腕がサイドハンドの軌跡を描いて、ボールを指先から弾き出した。

 バシッ!

 と、航の投げたボールが、鋭いシュート回転をしながら、結花のミットを鳴らす。右打者の内側に抉りこむ、サイドハンド特有の直球であった。
「いいよ、航!」
 結花の投げ返したボールを受け取ると、すぐさまセットポジションから二球目、三球目とテンポよく直球を投げ込む。
「今の、抜けたんじゃないの!?」
 結花のミットが、時折逆の方に動くのは、航の投げるストレートが、抜けるときがあるからだろう。
「うっ……わ……!」
 一方で結花も、捕ったと思ったボールを、真下に零してしまう事があった。サイドハンド独特の回転をするボールを、ミットで捕ることに、慣れていないからである。

 ドスッ…

「う、ぐっ……!」
 ボールを捕り損ねて、プロテクター越しとはいえ、胸に当ててしまうこともあった。
「………」
 だが、航は、内心では心配することしきりはいえ、ボールを身体に当ててしまった結花を、労わる仕草は見せないようにしていた。そんなことをしても、彼女は喜ばないと、分かっているからだ。
「どーってことないわよ、こんなの!」
 結花自身も、ミスをしたのは自分なのだから、航がもしそのことで気にかけるような行動をしようものなら、逆に、そう言って叱り飛ばすつもりでいた。
「航!」
 すぐにボールを、投げ返す。“次、どんどんきなさいよ!”と、言わんばかりに、ミットを構える。
「……!」
 航は、そんな結花の意気込みに応えるべく、渾身の力で黙々と、投球練習を続けた。

 ズバンッ!

「ナイスボールだ、木戸!」
 吉川の介抱を終えた岡崎が、結花のミットを高く鳴らした航のストレートに、賞賛の声を贈っていた。いつの間にか、今度は自分たちが、練習を見られる側に廻っていたようである。
「体に何球か当てていたようだが、片瀬、大丈夫か?」
「平気です! ありがとうございます!」
 マスクの下から、結花の元気な笑顔が覗いていた。
 本当は、ボールを当てたところが少し痛みもするが、高校時代にもそんな打ち身はよく受けていたし、胸元にはしっかりとサポーターも巻いてあるから、平気だということには、間違いがなかった。
「だから、そんな顔したらダメよ、航」
 捕手の身体を気遣って、遠慮をするようでは、投手として失格だと、結花は言いたいのであろう。
「そうだな。すまない、結花」
 言葉には出さずとも、顔には出ていてしまったらしい。
「だーかーらー、そんな簡単に、謝ってもダメだってば!」
 “ピッチャーってのは、傲岸不遜、唯我独尊でなきゃダメなのよ!”と、航に檄を入れる結花であった。


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