リビドー-4
だが、その期待はいつも裏切られることになる。
今から凌辱されるだろうという時に決まって、奴が登場するんだ。
そう、正義の味方のヒーローが。
寸でのところでソイツが俺の欲望の芽を摘んでしまう。
ソイツはあっという間に悪党どもをなぎ倒し、捕らわれた女を救い出す。
普通ならば、そんなシーンに安心したり、応援したりするのだろうが、俺はその度にガックリ肩を落としていた。
俺が観たいのは、そんな展開じゃないんだ――。
画面の中の壬生柚香は、いつの間にか壁にエックス型に磔にされる形で拘束されていた。
『いやあっ……、誰か、誰か助けてぇぇ……!』
『こんな場所に誰が来るってんだよ、バカか』
男の一人が、壬生柚香の細いわりに豊満なバストをギュッと鷲掴みにすると、彼女は苦しそうに顔を歪めた。
『さあ、たっぷり可愛がってやるからな』
その言葉を皮切りに、残りの若者が彼女の身体に群がっていった。
『いやあああ!!!』
弾けとぶブラウスのボタン。露になる白いブラジャー。まくしあげられ、晒される太もも。
激しい凌辱を待ち受けるであろう、壬生柚香の泣き叫ぶ姿に俺はどうしようもない劣情にかられていた。
……しかし。
「……ヒロ?」
兄貴の心配そうな声で、俺の意識は現実に戻っていた。
ゆっくりテレビから兄貴の方へ顔を向けると、彼は心底心配そうな顔をしていた。
「……大丈夫か、お前。顔真っ青だぞ。唇だって震えてるし」
「……、そ、そうか?」
自分のどうしようもない感情を見透かされたような気がして、思わず俯いた。
「お前、こういう残酷なシーン苦手だもんな。チャンネル替えようか?」
テレビの中の壬生柚香は未だに悲痛な叫びをあげ続けている。
しかしやられていることは、ブラジャーの上から胸をまさぐられているだけ。
まあ、公共の電波じゃこの辺りまでが限界か。
俺はため息を小さく吐いてから、
「いや、もう寝るからいいや」
とだけ言って、ソファーから立ち上がった。