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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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23 強者の渇求(性描写)-5



――その日。
 海底城の一角で、使用人同士の乱闘騒ぎが起きた。
 事情を取りただす面倒役は、ツァイロンが担う羽目になった。
 『元凶はエリアス』と、他の者たちが一様に主張したせいだ。
 関係者は現場となった広い階段下に並んで立たされ、重苦しい空気が立ち込めていた。

「……なるほど」

 騒ぎの原因を知ると、ツァイロンは不愉快も露に渋面をつくった。

「お騒がせし、申し訳ございません」

 エリアスが謝罪したのは、ツァイロンに面倒をかけた事に対してだ。
 断じて、傍らで小気味良さそうにニタついている男達に対してではない。

 そもそも事の起こりは『女体になって輪姦されろ』という彼らの要求を断ったからだ。
 断り続けたら、あげくに殴って言う事を聞かせようとしてきた。
 腕力で勝る彼らの言い分では、弱者が強者に従うのは当然だそうだ。

 その理屈に、まったく同感だった。

 だから腕力と数に、知恵で戦った。
 彼らを上手く誘導し、まとめて階段から蹴り落した。
 しかし彼らは、自分達が弱かった事実を受け入れる気はないようだ。

「ツァイロンさま。俺たちは丁寧に頼んだんです。なのに階段から蹴り落とされるなんて」

 一人が尚も言い立てると、調子づいた男たちは、口々に勝手な事を言ってくれる。

「そうそう。エリアスが大人しく、俺らの相手をすりゃ良かったんだ」

「自由時間だし、俺たちは乱暴なんかする気はなかった」

「そうだ、エリアスが悪い。他の性玩具は皆、喜んで俺たちと遊んでくれるぜ?」

(……でしたら、他と遊んでいただきたいものですね)

 思わず喉から出かかった言葉を、かろうじて飲みこむ。
 主たちを楽しませるための性玩具だが、自由時間には使用人も好きに遊んで良いと許されている。
 使用人たちのストレス解消にもなり、御しやすくなるからだ。

 性玩具に造られた者は、それで得る快楽に貪欲な者が多く、中毒レベルの者すらいた。
 それに相手が使用人仲間なら、ある程度はワガママも言えるし、何かと優遇されチヤホヤもされる。
 だから他の性玩具は、誘われれば滅多に断らない。

 雌雄を入れ替えられる珍しい身体に加え、性技も容姿も抜群のエリアスにも、迫る使用人は後を絶たなかった。
 だが性玩具とはいえ、快楽を感じないエリアスにとって性行為は苦痛なだけ。
 得意=好きは、エリアスには当てはまらない。

 それが自分の造られた意味だからこそ、主たちには従順に奉仕する。
 しかし自由時間にまで、義務でもない相手に奉仕するのは御免だ。
 男女問わずそう断っていたが、それでもしつこく付き纏う輩がいて、今回の騒ぎになったのだ。

「だいたい、性玩具のクセに不感症なんざ、とんだ出来損ない……」

 調子づいた一人の舌は、ツァイロンの眼差しに気付き、途中で凍てついた。
 造り手の前で、エリアスを『出来損ない』と言うのはまずいと、やっと気付いたらしい。

「も、申し訳ありません!」

 男の謝罪を黙殺し、ツァイロンはエリアスに命じた。

「女体化してみろ」

「……かしこまりました」

 薄いシャツの下で、エリアスの身体が女性のそれへかわる。
 ツァイロンが窮屈そうな胸元のボタンをいくつか外すと、重たげな乳房がまろびでた。
 傍らの男たちが怒りも忘れて凝視する中、薄桃色の先端を軽くいじる。
 エリアスが顔色一つ変えないのを見て、不愉快そうなため息とともに手を離した。

「お前の性感を抑えたのは、やはり失敗だったな。いい思い付きと思ったんだが……こればかりは、今更修正しようがない」

「……」

 黙ってエリアスは衣服を直す。
 触れられているのは感じる。男体であれば、子を成さない精を放つのも可能。
 しかし、心地いいとは思わない。

「エリアス。閨から私物をまとめ、私の研究室に来い。一時間以内だ」

 ツァイロンはひらりと長い衣服の裾を翻す。

「他は持ち場に戻れ。罰として一週間、自由時間なしだ」

 他の全員が、安堵のため息をついた。厳しいツァイロンにしては寛大な処置だ。
 対してエリアスの心境は、鉛のように重かった。

――ああ、ついに壊される時がきた。

 閨で少ない私物をまとめ、ツァイロンの研究室をノックした時、覚悟はしていたのに、小さく身震いしてしまった。

 性玩具として、エリアスは技術も容姿もトップクラスの出来栄えだ。
 ツァイロンが考えたように、一方的に奉仕するだけなのだから、理論上はエリアスの性感など必要ないはず。
 それでもやはり、まるで反応がないのは物足りないという主もいた。
 それなりに演技する事も出来たが、エリアスの身体を知っている相手には、かえって不快にさせるだけだ。
 そしてツァイロン自身も……
 『失敗作だな』
 エリアスを抱いた後、ひどく不愉快そうに呟いていた。
 気難しく芸術肌の彼としては、他の部分が巧く仕上がっているだけに、欠点がより耐えがたく目立って見えるのだろう。



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