23 強者の渇求(性描写)-3
「ま、待ちなさい!! ―――――っ!!なりますよ!!」
悲鳴をあげ、呪文を唱えた。
主たちの中には男色も両刀もいる。
普通の身体なら、男同士でも上手くすれば快楽を得られるだろうが、感度の鈍いエリアスにとって、男色の相手をさせられるのは、拷問以外の何でもない。
それに……怖かった。
万が一、その状態ですらミスカに快楽を植えこまれてしまったら……。
早口の詠唱が終わり、膨らんだ胸が濡れた布を窮屈に押し上げる。
いつもなら肩や袖口はだぼつくが、ミスカに操られる濡れた衣服は、ぎっちり張り付いたままだ。
「強姦でなければ勃ちませんか?」
精一杯冷めた声で皮肉った。
それが間違いなのも、ミスカが手ごろな相手に不自由していないのも知っているが、腹立ちが収まらない。
「エリアスには、そうかもなぁ」
ミスカは平然と肯定し、衣服の胸元へ指を滑らせた。
濡れ布越しのむず痒いような刺激に眉を寄せる。
「お前にはご奉仕されるより、嫌がられても好き勝手に抱きたいって思っちまうんだから」
衣服の水分が、エリアスの両肘を手近な木の幹へ張り付かせた。
まるでエリアスが、自分で木に腕をついているように見える。
背後から抱き締めるミスカが、首筋にキスを降らせ、襟首からわずかに覗く鎖骨を指でなぞる。
「いい迷惑です!」
濡れた衣服越しの感覚は、いつも素肌を撫でられるそれと違う。
けれど、胸や腰をゆるやかに撫で上げる動きは同じ。エリアスを感じさせようと執拗に攻め立てる。
ミスカの体温が濡れ布越しに背へ伝わり、じわりと体温を上げていく。
とろ火で煮詰められるような息苦しさが、エリアスの全身を苛む。
紺碧の瞳が潤みだす頃には、濡れ布に尖った先端のシルエットが、くっきり浮き上がっていた。
「……ぁっ」
衣服の裾から直接肌を撫でられ、思わず噛み殺せなかった小さな声が漏れた。背後でミスカが声もなく笑う気配を感じる。
後ろ向きに腰を突き出す姿勢をとらされ、ミスカに操られた下衣が足首に落ちる。
吐き出す息は呆れるほど熱く、額から流れる汗が頬を伝い、足腰がガクガク震える。
いまにも芝生へ崩れ落ちそうなのに、胴を支えるミスカの片腕と、幹に張り付く袖が許してくれない。
生ぬるい夜気に晒された秘所をなぞられ、肌がゾクリと粟立った。
「っん……」
グチュリと濡れた音をたて、指が体内に沈む。
濡れ音を立てたのは、エリアス自身からとろけ出した蜜だ。
「は……ぅ……」
立て続けに零れる甘い吐息を殺そうと、必死で唇を噛んだ。
潤みきった瞳から涙が溢れ、頬を伝っていく。
「エリアスの泣き顔、最高に色気があって大好きだ。手間かけても感じさせる甲斐がある」
柔らかく耳朶を甘噛みし、情欲に掠れた声が囁く。
顎を掴んで無理やり振り向かせ、ミスカはひどく残酷な笑みを浮べ、頬を濡らす涙を舐めった。
「あ、ぁ、ぁ……」
後ろから貫かれ、結合部から溢れた愛液が太ももを伝って行く。
苦しいほど抱き締められながら、やっと聞き取れるほど小さな声が聞えた。
「……これが手に入るだけで、我慢できりゃ良かったのに」
改めて痛感した。
やっぱりミスカにとって、これは単なるお遊びだ。
「ミスカ……っ、…………大嫌いっ」
ギリ、と噛み締めた奥歯が鳴る。
――初めて会った日から、大嫌いだった……。