投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

魔眼王子と飛竜の姫騎士の最初へ 魔眼王子と飛竜の姫騎士 66 魔眼王子と飛竜の姫騎士 68 魔眼王子と飛竜の姫騎士の最後へ

22 夜ふけの密会-2


「――お久しぶりです、アレシュさま。ご好意に甘えさせて頂きました」

 とても気まずそうな表情で、カティヤが敬礼する。

「ああ……」

 答えながら、アレシュはキョロキョロ室内を見渡した。
 寝台と机、小さな書棚と衣服入れ……華美ではないが質素すぎる事もない、ありふれた小さな部屋だった。
 壁際にカティヤの槍が立てかけてある所から、ここは彼女の宿舎なのだろう。
 オーク材の扉は閉まり、窓にも鎧戸が降りているが、カティヤは団服をきっちり着込み、しゃんと立っていて、閉じ込められている様子でもない。
 物騒な刃鳴りも悲鳴もなし。

「えーと……元気そう……だな?」

 なぜ自分を呼んだのかわからず、とりあえず言葉を濁した。

「はい。アレシュさま達も、お変わりございませんか?」

「ああ、俺もエリアスも元気でやっている。それで……どうかしたのか?」

 思い切って尋ねると、カティヤの肩がピクリと揺れた。空色の瞳が、そわそわ揺れ動く。

「明日、竜騎士団は揃ってストシェーダ使節団をお迎えします。その……アレシュさまをお迎えしても動じないように、予行演習をさせて頂きたいと……」

 予想もしなかった答えに、アレシュはあんぐり口を開け、しばらく声も出ないままカティヤを凝視した。

「アレシュさま……?」

「は……あはははは!!!」

 思い切り笑い転げた。

「なんだ、俺はもっと深刻な状況かと……あはははははっ!!!」

「わ、私にとっては深刻なのです!もし少しでも動揺したら、過保護な兄はきっと、貴方が王都にいる間中、私を部屋に閉じ込めます!」

「あははは!!それは確かに……くくくっ、大変だ、はははっ!」

「笑い事ではないのです!実際、迎えの隊列から私を外そうと、あの手この手で……」

 気が抜けた反動か、カティヤが怒れば怒るほど、笑いが止まらない。

「くく……それで、予行演習は何をすればいい?」

 目端に涙を浮かべ、ふくれっつらのカティヤに尋ねる。

「もう結構です。笑い飛ばして頂き、かえって気が楽になりました」

 竜の姫騎士は小さく息を吐き、可愛らしい唇に穏やかな笑みを浮べた。

「わざわざお呼び立てして、申し訳ございませんでした。明日のご来訪を、心よりお待ち申しております」

「今ここにいるのに、わざわざ明日出直すなんて、これだから国事は厄介だ」

 アレシュがぼやき、今度はカティヤが笑うほうだった。
 ゼノでも何度かカティヤの笑顔は見たが、この部屋での笑顔は、より輝いている気がした。
 多分、このしっくり馴染んでいる空気が、そう感じさせるのだ。

(呼んでくれて助かったのは、俺のほうかもな……)
 アレシュはそっと思った。
 重苦しい濃霧がすっきり晴れていくようだ。
 順調だったカティヤの暮らしを引っ掻き回し、悪戯に過去を思い出させ、半端に傷つけた自覚が十分にある。
 王都で再会しても、もう気まずくぎこちない表情しか見せてくれないのではと、勝手に悪いほうにばかり考えていた。
 きっと明日は晴れ晴れとした気分で、ストシェーダ代表として王都を訪問できる。
 カティヤもナハトに乗り、堂々と出迎えてくれるだろう。
 それが二人の、現在あるべき姿だ。

「カティヤ……」

 思わず、くすくす笑っている小柄な身体を抱き寄せてしまった。

「っ!?」

「……呼び出し料金だ」

 諦めきれないと叫ぶ心に無理やり蓋をし、額に軽く口づけた。
 身体を離し、宿の部屋をイメージして魔眼を光らせる。
 額に手を当て呆然としているカティヤに手を振った。

「おやすみ。またいつでも呼んでくれ」

 これ以上いたら、また泣かせるような事をしてしまいそうだった。



魔眼王子と飛竜の姫騎士の最初へ 魔眼王子と飛竜の姫騎士 66 魔眼王子と飛竜の姫騎士 68 魔眼王子と飛竜の姫騎士の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前