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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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22 夜ふけの密会-1

 
 その夜、アレシュはストシェーダ使節団を率いて、ジェラッド王都に近い宿場に泊まっていた。

 魔眼を使えば、ストシェーダ王都からジェラッド王都まで一瞬だ。
 しかし途中街道の視察も兼ねているので、地道に騎馬で半月かけての旅となった。
 まだるっこしい気もするが、大陸行路はどこの国にとっても重要な道。
 急ぐばかりでは重要なものを見落とすと、エリアスに諭されたのだ。

 アレシュは魔眼暴走のせいで、封じ石の牢獄が無い場所で暮らした事も、旅をした事もない。
 不安はあったが、報告で聞くのと実際に見るのでは、集落の様子一つとっても、雲泥の差だった。
 見識を大幅に広げるきっかけにもなり、それから……エリアスの本当の狙いはそこではないかと思うのだが、アレシュの良い気分転換にもなった。
 魔眼暴走の予兆を感じたら、すぐさまエリアスとゼノ城に移動し、治まってから使節団に再び合流するという荒業も、意外なほどスムーズにいった。

 使節団の人間は半分以上が王宮の人間で、ゼノから同行したのはエリアスを含むわずか数人だ。
 発ってすぐは、アレシュへぎこちない王宮側の者へ、ゼノ側の者が突っかかるというような諍いが、いくつかあった。
 しかし、どれも大事にならずに済んだのは、エリアスのソツない対応と、なによりアレシュの力量が大きい。
 治まった諍いは逆に良い感情を産み、今では王都側の人間も、アレシュを信頼してくれている。
 宿の一室で打ち合わせを済ませると、皆互いに打ち解けた調子で解散していった。
 自室に籠もる者や、酒場で呑む者など、これからは自由時間だ。

 部屋にはアレシュとエリアスだけが残り、書類の最終チェックをしながら、ふと呟いた。

「いよいよ明日か……」

 ユハ王とは先日を含め、何度か面識があるが、ジェラッド王都を正式に訪れるのは初めてだ。 
 ジェラッドの建国祭といえば、大陸一賑やかで陽気な祭りとして有名だ。
 アレシュも昔から、一度は見てみたいと思っていた。
 見学予定の錬金術工房なども、興味はつきない。
 それでも近づくにつれ、相反する思いが胸中に膨らむ。
 ついため息が出ると、隅で日程表を確認していたエリアスが振り返る。

「カティヤさまに会うのが、心配ですか?」

「まさか。元気に過ごしているカティヤを見るのが楽しみだ」

「そうでしたか。失礼いたしました」

「ただ、残念だが、ゆっくり話す時間はないだろうがな。向こうも忙しいだろう」

 どうせ見抜かれているのだから、せめて口先の見栄くらい張らせて欲しいものだ。
 案の定、エリアスは意地っ張りな子どもを眺めるような眼でニヤニヤしている。
 エリアスが書類をしまい、アレシュも部屋に帰ろうと立ち上がる。

「明日も早いから、もう寝るぞ」

 旅の途中、エリアスは基本的にずっとアレシュと同室で寝泊りしていた。

「申し訳ございません。わたくしは少々、野暮用がございますので、先にお休みなさってください」

「ふぅん……」

 エリアスが『野暮用』という時は、いつもこんな風に宙を睨み、少し顔をしかめる。
 まるで、この後会う誰かの顔を思い浮かべるように。

「誰かに会うのか?」

 つい、なんとなく聞いてしまった。

「え?」

「考えてみれば、エリアスから家族や故郷の話を聞いた事が、一度もないと思ってな。もう十年以上も一緒にいるのに」

 一瞬、エリアスの紺碧の瞳に、動揺の色が走った気がした。
 しかしその瞳はすぐ、懐かしそうに細められる。

「十年以上……そんなに経つのですね」

「秘密主義なのも、よく知っているから、無理に聞こうとは思わないが」

「ありがとうございます。どのみち、わざわざお聞かせする程でもございません」

 優雅に一礼し、ソツない側近は退室していく。
 一人きりの部屋で軽く肩をすくめ、アレシュも三階の宿泊部屋へ戻る。
 扉を閉め、腰の剣を外して机に置いた時だった。

「……?」

 緋色の髪にいつもつけている、黒と金の魔石が、数回チカチカと瞬いた。



「カティヤ!?」

 カティヤのペンダントと呼応している魔石を握り、宿の窓から急いで顔を突き出した。
 別れ際、あのペンダントだけは持っていてくれと頼んだ。
 いつも着けてくれていなくとも良い。
 ただ、もしアレシュが必要になれば、大陸のどこからでも駆けつけられるように……。

 暗い夜の大地に、アレシュだけに見える光の道が、彼女のいる方角を知らせる。
 再び魔石に意識を集中した。位置と距離から、ジェラッド王城に違いない。

 嫌な予感に、心臓が跳ねた。

 メルキオレが手を尽くして国内中を探しているが、マウリの行方は未だ掴めない。
 そしてリザードマンの被害は増えるどころか、この一ヶ月で極端に減っていた。
 魔法で王都には各地から定期報告が来るが、ストシェーダ中からリザードマンが消えてしまったようだと、各領地の城主が首をひねっているそうだ。
 そして逆に、ジェラッドでは頻繁にリザードマンの群れが見かけられるようになったと、道中に何度も聞いた。

 剣を掴み取り、魔眼を握る方の手に力を込める。
 アレシュの両眼が光り、徐々に全身が透けていく。
 数瞬のち、その身体はカティヤの前にあった。



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