21 建国祭の準備-3
その後、ニ・三の打ち合わせを済ませて退室し、カティヤはベルンと供に厩舎へ向かう。
途中の渡り廊下で、辺りが無人になったのを見計らい、兄に尋ねた。
「兄さん、陛下と何を材料に裏取引をなさった?」
大方、王宮を忍び出して遊びに行くのを大目に見ろとか、そんな所だろう。
「何のことだ?人聞き悪い」
ソッポを向いたベルンは、落ち着かなさげに視線を彷徨わせている。
相変わらず、一直線で嘘のつけない人だ。
堪えきれない笑いで唇を震わせ、長身の肩をつっついた。
「この時期に、あれくらいの私情で休暇を認めるほど、陛下は甘くない。兄さんには悪いが、陛下は私が断るのを見越したうえで、臨時休暇を勧めたのだろうな」
「なっ!じゃ、俺はなんのために苦労して……」
途中まで言いかけ、あわててベルンは口を押さえる。
「ほら、やっぱり」
カティヤがアレシュと顔をあわせなくて済むようにと、ユハに懇願するベルンの姿が目に浮かび、笑いが止まらなくなってしまった。
「……あー、どうせ俺は、単純で脳筋と言われてるさ」
すっかり拗ねてしまったベルンの逞しい腕に、抱きついた。
「そこが兄さんの良い所だ。ハハッ!…………ありがとう」
そのまま、顔をあげられなくなってしまった。涙声になるのを止められない。
「でも……もう、良いんだ。私には騎士団があるし、アレシュ殿も……そのうち相応しい女性を娶る」
くしゃくしゃ頭を撫でられ、やっと顔をあげると、ベルンが困ったように苦笑いをしていた。
「あんなに小さくて泣き虫だったカティヤは、いつのまに、こんな強い騎士になっちまったのかなぁ」
「鍛えてくれたのは、兄さんだろう」
「もう少し手抜きして鍛えるべきだった。まぁ、嫁の貰い手がなかったら、俺が責任とるさ」
冗談めかしてベルンは言うが、カティヤは知っている。
「兄さんの好みは、私とは全然タイプが違う、もっと大人びた美女だろう?例えばほら、ええと……エリアスさまのような」
「あれは男だろう!!!」
だが、アレシュの側近を思い起こしたらしいベルンは、残念そうなため息をつく。
「早めに気付いて良かった……あやうく一目ぼれする所だったからな」
身体を離し、今度は二人で大笑いした。