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ナツとちさ
【ガールズ 恋愛小説】

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前編-1

(キーッ!)
「はっ!ちさ!?」

コンビニのレジで会計をしているときに、表の通りで車のブレーキ音がしました。
「すいませんっ!これ、いらないです!」
私は急いで外に出てみます。
ちさは、車道に飛び出すような子ではないですが、
ちょっとポヤッとしているので心配です。
見回すと、コンビニから少し離れた歩道に、むこうを向いて立っていました。

「ちさ!今のブレーキの音、大丈夫だった!?事故とかじゃない?」
近づくと、ちさの足元に猫が倒れています。白っぽい毛に血が付いています。
ちさはひどく泣いていて、手が汚れています。

「ナツ、猫がしんじゃったよ。あっちの植え込みから道路をうかがってたんだ。
飛び出しそうだから、ヤメロヤメロって言ったんだけど、
聞かなくてはねられちゃったんだ。
こっちまで来たんだけど、そこで倒れて、脚をバタバタさせて、それで、それで…」
「…動けなくなって、ちさがここまで連れてきたんだね」
車道に引きずった跡があります。

「車ひどいんだ。そのまま行っちゃって、白いミニバンで、うっうっ」
「悲しいね。猫、かわいそうだね。ちさは猫のためにできることはしたよ。
コンビニで手を洗わせてもらおう。
店員さんに、市役所に電話してもらって、猫を引き取ってもらおうよ」
私たちは、猫の顔にハンカチをかけてあげて、コンビニに戻りました。

「ちさ、うちにおいで。うちで休んできな。今夜泊まっていっていきな。
私、一緒にいるから」
泣いているちさを連れて、私のうちに連れて帰りました。




私とちさは、高校に入ってから知り合いました。
割と近所だったのですが、学区が違っていたためです。
入学して半年もたった今では、一番の親友です。
よく、お互いの家に泊まりにいきます。
ちさはとても感受性の強い子です。
明るいけれど、すぐに泣きます。でも、自分のことでは決して泣きません。

私なら、ご飯を食べられない猫はかわいそうだな、とは思っても、
ご飯を食べられないおじさんは、働け、としか思いません。
ちさは、猫もおじさんもかわいそうだなと感じるのです。

コンビニからの帰りに、仕事中の母親に出したメールの返事が、返ってきました。
『薬箱に睡眠導入剤があるから、千里ちゃんに飲ませて寝かせなさい。
明日の朝早く起きて、自転車で自宅に寄らせてから学校に行かせなさい。
千里ちゃんのお母さんには連絡しました』
ありがとう、と、返信しておきました。
うちは母子家庭なので、私は母親を頼りにしています。

ちさはグジュグジュ泣いています。
とりあえず薬を飲ませて、落ち着かせます。
「寝な、ちさ。今日は寝てしまおうよ」
私は布団の中で、ちさの頭を抱きます。
ちさの涙が、私のスエットの胸元を濡らします。
「ばかだよ。猫は、ばかだよ」
ちさは、ふーっと、ため息をつくと、静かに眠りに落ちていきました。




(私はちさが好きなんだ)
そう気が付いたのは、そんなに前じゃない。

もともと私は女の人が好きだった。というか、男がキライだった。
それもこれも、父親だった男のせいだ。
母親に買わせた、白いミニバンで出て行った。やっぱりロクな人間が乗ってやしない。
これ以上は思い出したくもない。

最初は、ちさが信じられなかった。それくらい感情移入しやすい子だ。
でも、ちさが持っているものは私には無いもので、とても大切なものだと気が付いた。
傷つきやすい、ちさを守りたい。と、思ったけれど、
警察官じゃあるまいし、そんな力は今の私には無い。
せめて、そばにいて一緒に悲しんだり、喜んだりしたいなぁ、と付き合っていたら、
それは恋ではないですか?
最近、自分でするときは、ちさのことを考えてしまう…

「ちさ…寝た?」
私はささやいてみます。
ちさは、力なくグッスリ眠っています。薬が効いているのでしょう。
私は、ちさの顔をよく見てみます。涙の跡が残っています。
おでこにキスをします。
ちさの柔らかい髪。私はちさの頭のにおいを吸い込みます。
ちさは少しやせているけれど、こうして抱くとやっぱり柔らかい、女の子です。
私は、ちさを起こさないように、静かにオナニーをしてから一緒に寝ました。


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