ゼロ-1
ーアイツが生きている……?
アイツ……ゼインの全てを変えたあの男……あの、生き物……。
ゼインは産まれながらの奴隷だった。
他の奴隷仲間に聞いたのだ「お前は『畑』から来た」と。
大陸各地で奴隷制度の廃止が進んでいる。
今までは身寄りの無い子供を拾ってきたり、貧困層の家庭から売られたり……いくらでも補充出来ていたものが、奴隷制度廃止運動に伴い養護施設が出来てきて難しくなってきた。
そうなると、奴隷商人にとっては死活問題だ。
需要に供給が追いつかない……そこで考え出されたのが、奴隷の製造。
特別な施設で新たな奴隷を産み出すのだ。
そこでは魔法使い崩れの術者が作った怪しげな薬を使い、妊娠から出産を1週間で済ませていた。
母体となるのは勿論奴隷で、精神異常を起こしたり、高齢や身体の破損によって使えなくなった者達。
ただ殺して破棄するよりは役に立つ。
しかも、受精卵を一気に子宮に入れて一度に3人から5人の子供を妊娠させていた。
そして、胎内に居る間に様々な薬を投与し、胎児を人間離れした『モノ』に造り変える。
筋力増強、五感の強化……胎児は胎内で異常な速度で成長し、産まれた瞬間から立って歩ける程になる。
結果的に産み出されるじゃなく、腹を裂いて取り出される。
取り出された子供達は一ヵ所に集められ、調教、洗脳された。
その場所を他の奴隷や商人達は『畑』と呼んでいた。
『畑』出身の奴隷は従順で身体が丈夫で力も強い。
普通の奴隷より値は張るが、それだけの価値はある。
そんな『畑』出身のゼインは店に並んだ途端に高値がつき、直ぐに売れた。
柔らかい灰色の髪は艶々だし、何より蒼い瞳が綺麗だ。
『畑』出身のクセに気性が荒く、反抗的な態度を取るが命令には従う所がツンデレで可愛いというのも人気の秘密でもある。
しかし、彼が売られた先で次々と買い主が死んでいったのだ。
初めはホモでショタのキモい親父だった……その次は娼館のサディストな女王様……後はもう覚えていない。
初めはゼインが殺したと思われたが『畑』出身の奴隷は飼い主を殺したりしない。
例え、それが気性が荒く言葉遣いが悪いゼインでもだ。
そこで付いたあだ名が『死を呼ぶ奴隷』。
そんなあだ名が付くと物好きな客が高値をつけて買いたがる。
そして、やっぱり死んでいくのだ。
(俺に関わる人間は死ぬのか?)
そう思って、何だか罪悪感に似た気持ちにもなったりしたが、自分が死ねば良いとは思えなかった。
ゼインにとって『生』は奇跡……あり得ない産まれ方をして身体に異常をきたし腐れた『畑』仲間を何人も見てきた。
その中を生きている……凄く酷い環境でも生きていられる。
それが、どれだけの奇跡かをゼインは知っている。
生きる『欲』は純粋で綺麗だとゼインは思う。
だから、生きていく……ギリギリまで生き抜く。
ゼインの蒼い瞳が綺麗なのは生きる事に真っ直ぐだからだ。
そんなある日、飼い主が殺される現場を目撃した。
犯人は黒装束に身を包んで、白い仮面をつけた女だった。
彼女の足元には血を流して生き絶えている飼い主、右手には血が滴った短剣。
振り向いた白い仮面の奥にあるのは、赤い眼。
その眼はキラキラと輝いていて、凄く綺麗だと思った。
ふと気付くと、その赤い眼が目の前にあった。