ゼロ-3
(……あんまり時間たってねぇな……)
指を擦り合わせて血の粘度を確かめたゼインは、改めて周りを見る。
窓は無いし、淀んだ空気からするに恐らく地下。
空気に混じって微かに血の臭いがし、ひっきりなしに呻き声のようなものが聞こえる。
「?」
知らない場所の筈なのに、妙な既視感を覚えてゼインは首を傾げた。
「ああ、起きましたか」
不意に声をかけられ、ゼインは飛び上がって驚く。
気配なんか無かったし、ひとつも物音がしなかったのに、その男はゼインの背後に立っていた。
「話が聞きたい。話して下さい」
ブカブカの茶色いローブを着た男は、そう言うとゼインの真後ろにペタンと座る。
「あ……えっと……え?」
唐突過ぎてワケが分からない。
「さあ」
さあ、と言われても困る。
大体、ここは何処だ?殺された飼い主はどうなったんだ?何故、俺はここに居る?つうか、アンタ誰?
ゼインの頭の中はごちゃごちゃととっちらかってしまった。
「……知的障害者を買ってしまいましたかねぇ……」
男はポツリと呟くとスクッと立ち上がる。
聞き捨てならない言葉に、ゼインはムッとして言い返した。
「待てよ。俺は頭弱いワケじゃねぇ。ただ、意味が分かんねぇんだ」
「はて……分からない事とは?」
あっさりした男の態度に、なんだか本当に自分が間抜けになった気になったが、まずは自分の立ち位置を確認しないといけない。
「ここ何処?」
「地下です」
「俺の主人は?」
「私です」
「つうか、アンタ誰?」
「秘密です」
「………………」
質問には答えてもらっているのに、全く会話が成立してないのは何故だろう?
ゼインは胡座をかいた足首を両手で握り、じーっと相手を見る。
「俺の前の主人が死んだから、得体の知れないアンタが買い取ってここに連れてきた……で良いのか?」
「正解です。良く出来ました」
男は感心した、とゼインに拍手を送った。
何か変な奴に買われてしまった……いったい何をやらされるのか……。