ゼロ-20
「おい」
何のつもりだ?俺を買ったとでも言いたいのか?
金を貰おうなんて思っていない、そんなものは要らない。
幸せだったゼインの心がサアッと現実に戻った。
「これは1人で生きる為の軍資金……宿の支払いも済ませたから……チェックアウトは明日の朝、11時よ」
「……いらねぇ」
「ダメ。世の中そんなに甘くないの」
確かに、ゼインは無一文で本当の世の中を知らない。
カリーの言う事は当然の事であり、ゼインは彼女の言う事を聞くしか無いようだ。
「じゃ、借りる……だから、またな」
そう言ったゼインにカリーは困ったような表情になる。
「バイバイ……ゼイン」
カリーは振り向かずに別れの挨拶をして部屋を出ていってしまった。
ゼインはカリーの出ていったドアを眺めて少し安堵する。
これ以上一緒に居たら、彼女まで死んでしまうかもしれない。
ゼインは天使の温もりと匂いの残るベットに潜り、幸せの余韻を噛み締めるのだった。
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「もぉゼイン!」
「いてっ」
再びカリーに声をかけられ、今度は耳を引っ張られた。
「さっきから話してるのに!!」
「あ?悪ぃ……」
2人は休憩中だったのだが、話すカリーにゼインは上の空で返事をしていたらしい。
あれから4年してカリーと再会した。
冒険者として生計をたて、あちこちを回って……短い期間、パーティーを組む事もあったが基本的には1人で行動した。
仲間を作ると失った時にまた暴走しそうで怖かったのだ。
ある時、街中を歩いていたら突然カリーが抱きついて来た。
腰が抜ける程驚いて、泣きそうなくらい嬉しくて嬉しくて……そのクセやっぱり怖くて堪らなかった。
それでも……離したくなくて……自分から彼女を離す事が出来なくて……彼女が見切りをつけて離れてくれるまでのつもりで一緒に居た。
でも、カリーは今でもゼインの横に居る。
この4年の間、暴走して獣に変身する事はなかったが、人並外れた能力は見せていた。
それでも怖がる事無く、ゼインの横に。
その彼女が、さっきはゼインに怯えた顔を向けていた。
だから、もう限界……そろそろ限界だ……。
「さて、行くか」
ゼインはお尻を払って荷物を担いだ。
街に戻ったらカリーとポロ、2人を置いて行かなければならない。
あの男の所に……あの男を止める為に。
(だから、後少しだけ……天使と居させてくれ)
心の中で祈るゼインの横で、彼の天使は少し顔を曇らせるのだった。