『SWING UP!!』第11話-57
宿坊に入るなり、隼人はそのまま、寝室に直行していた。よほど、眠くなってたのだろう。
(さて、と…)
浴衣姿のまま響は、帯だけは解いて、エプロンを身に着け、“浴衣エプロン”という斬新な出で立ちで、米びつから玄米を5合、電子炊飯器の釜に移し変えていた。それを水で軽く研ぎ、炊き上げに必要な水量を調整してから、予約時間を設定する。
次に、糠床から、漬かっていたきゅうりを三本ほど、糠ごと取り出して、別の容器に別けておいた。糠を払い、きゅうりを切るのは、食べる直前である。
冷蔵庫を開けて、夕餉の献立を考えてみる。多少、切り置いていた野菜と、豆腐、そして、きのこ類が容器に残っていたから、“味噌野菜豆腐鍋”がいいかもしれない、と思い至っていた。
土鍋を取り出して、軽く水ですすいでから、布巾でその水気を切る。中に水を満たして、昆布を一枚、底に沈め、それをそのまま七輪の上に置いておく。そして、七輪で使うための炭を、倉庫から少しより分けて小袋につめて、台所に移動しておいた。
(………)
準備をある程度整えて、エプロンを外した響は、不意に催すものを感じて、今度は“東司”に足を運んだ。
浴衣の裾をたくし上げ、その先端を“伊達締め”の中に収めてから、肌襦袢の裾も引き上げ、顕にした下着を膝元に下ろして、そのまましゃがみ込む。
「ん……」
ふる、と身体が震えたかと思うと、響の股間から金色の飛沫が勢いよく放出され、真下のオガクズに注ぎ吸い込まれていった。
「はぁ……」
催していたものを出し終えてから、拭き紙で股間の水気を拭い、そのまま真下のオガクズにそれも落とす。下着を引き上げて、帯に入れていた裾の先端を抜き取り、足元に引き伸ばして、合わせ目を整える。
“東司”を出る直前に、響は“便槽”の真横にある赤いスイッチを押した。
ウィン、ウィン、ウィン…
と、オガクズが満ちた便槽の中にある、スクリューが回り始めた。このように攪拌をすることで、中に排泄されたものが、バクテリアによってさらに分解され、跡形もなくオガクズとともに堆肥土壌と化すのである。それが、“バイオ・トイレ”の特徴であった。
用を足し終えて、“東司”を後にした響は、寝室の前を通りかかったとき、隼人の寝息をふと耳に聞きつけたので、その様子を伺うために、そっと襖を開いた。
「………」
案の定、掛けていたであろう布団が、はだけてしまっていた。いくら日中で、気温が高いとはいえ、そのままの格好で眠っていたのでは、身体を冷やしかねない。
(しょうがないんだから)
くすり、と頬を緩めながら、音を立てないように襖を更に開いて、足をしのばせながら、寝息を立てる隼人の枕もとに近づき、静かに両膝をつく。
布団を両手で持ち、それを隼人の胸元まで挙げて、元に戻す。
「………」
隼人の寝息が、頬にも感じられるくらい、近い場所で耳の中に響いた。