『SWING UP!!』第11話-55
「お待たせ！」
「ま、待った？」
「…あの、待ちました？」
三者三様に、色とりどりの浴衣姿が並んでいた。
「どお？」
桜子は、その名前が示すように、桜色でグラデーションがかかった、桜をあしらった花柄模様の、鮮やかな色合いをしている浴衣を身に着けていた。
「うん。とても、よく似合ってるよ。色も絵柄も、ほんと、桜子にぴったりだ」
「うふふー。ありがと♪」
慣れたような雰囲気を醸し出す二人は、さすがに経験が豊富である。
「あ、あの、わたし、変じゃない、かな？」
「い、いや。その……うん、似合ってる、と、思う……いや、似合ってるよ、片瀬」
結花は、空色の水玉模様が浮かぶ、コバルト色の浴衣を選んでいた。カジュアルな仕様ともいうべきそれは、結花の活発な雰囲気に良く合っている。
普段の勝気な凛々しさが、浴衣姿に包まれると、こうも可憐になるものか…。航は、言葉少なげに、動きを止めて、結花の全身を見つめていた。
「おー、響、なかなか清楚な感じだな。……いいな、とても、いい」
「にぃにぃ……視線が、その……煩悩に塗れてます……」
濃い紫色で、菖蒲の柄がシンプルにまとまっている浴衣に身を包む、響。隼人の言うように、落ち着いた紫色の清楚な雰囲気が、響の奥ゆかしさを更に強めていて、見るものを煩悩に溢れさせるのは間違いのないところだった。
「事務の西出さんに、足を頼んどいた。“法泉まつり”の中心になってる商店街の近くまでは、それで行くといい」
気がつけば、平屋の前には、人の良さそうな雰囲気を醸し出している、白髪頭の男性がいた。隼人の言うところの、“事務の西出さん”が彼なのだろう。
「西出さん、お願いするよ」
「はいな」
笑顔で“事務の西出さん”はそれに応えると、桜子、大和、結花、航の四人を先導しながら、“安広寺”の表門近くに止めているライトバンのドアをスライドさせて、まずはその四人を乗せた。
「じゃあ、ゆっくり愉しんできてくれ。それと、俺が渡した“お守り”、落とすんじゃないぜ」
「「お守り？」」
桜子と結花が、顔を見合わせて怪訝な表情をしている中、隼人の言うところの“お守り”を受け取ったらしい大和と航は、何となく困ったような、少しばかり照れたような、複雑な顔つきをしていた。
「ほいじゃ、出しますよ〜」
運転席に座った“事務の西出さん”は、するすると車を発進させた。
曲がり角に至って、排気音が聞こえなくなるまで、隼人と響は“安広寺”の表門前に立っていた。