『SWING UP!!』第11話-28
“隼リーグ”前期における、“最終決戦”とも言うべき試合が始まろうとしていた。
これまでの四試合に全て勝ちを収めている法泉印大学は、当然ながら、前期の優勝に王手をかけている。この試合で勝利すればもちろん、引き分けでも前期優勝が決まる。
対する双葉大学は、3勝1敗の成績であり、もしもこの試合で勝利を挙げれば、勝ち点で法泉印大学と並び、同じく4勝1敗で前期の日程を終えた仁仙大学を含めての、“プレーオフ”を行うことになる。
3チーム同士の、プレーオフによる決戦は、前年の順位が優先されるので、まず先に仁仙大学と双葉大学が対戦して、その勝利チームが、法泉印大学との最終決定戦に臨むことが出来るのだ。
「「「………」」」
だが、双葉大学も法泉印大学も、どちらもプレーオフのことは頭にない。今、目の前にあるこの試合に集中している。
そんな両チームの視線を受けながら、電光掲示板に、スターティング・ラインナップが掲示されていく。
それは、以下のようになっていた。
【法泉印大学 対 双葉大学】
先攻・法泉印大学
1番:大 仏(二塁手・2年・背番号 6)
2番:東 尋(左翼手・1年・背番号13)
3番:天狼院(投 手・3年・背番号 1)
4番:梧城寺(捕 手・2年・背番号 2)
5番:能 面(一塁手・2年・背番号 4)
6番:仙 石(三塁手・3年・背番号25)
7番:伏見坂(右翼手・3年・背番号 9)
8番:伊地知(中堅主・2年・背番号10)
9番:独楽送(遊撃手・1年・背番号 7)
後攻・双葉大学
1番:岡 崎(遊撃手・4年・背番号 5)
2番:栄 村(右翼手・4年・背番号 9)
3番:屋久杉(一塁手・4年・背番号 3)
4番:蓬 莱(捕 手・2年・背番号27)
5番:草 薙(投 手・2年・背番号 1)
6番:吉 川(三塁手・3年・背番号 2)
7番: 浦 (左翼手・3年・背番号 7)
8番:片 瀬(二塁手・1年・背番号28)
9番:木 戸(中堅手・1年・背番号30)
両チームとも、オーダーに変化はなかった。
後攻めということで、先に守備位置に立つ双葉大学のメンバーたち。マウンドの上に居るのは、当然ながら大和であり、4試合のうち2試合でノーヒッターとなった彼は、“最高の右腕”としての呼び声高く、“隼リーグ”の中でも注目を浴びるようになっていた。
「戻ってきた、“甲子園の恋人”、か……」
バックネット裏に腰を下ろす、ハンチング帽を被って、丸いサングラスをかけている初老の男が、そう呟いていた。
法泉市営球場での試合ということで、“隼リーグ”の本拠地というべき城央市営球場に比べれば、観客席はそれほど埋まっていない。だが、“最強の左腕”VS“最高の右腕”という、しびれるような一戦ということもあって、集まっている観戦者は一様に、目の肥えた玄人が出揃っていた。
「あんた、よく見る顔やけど、身内でもおるんか?」
その初老の男に、手にした缶コーヒーをすすめながら、中年の男性が腰を下ろしていた。彼もまた、“隼リーグ”の熱心な観戦者の一人である。それ故に、見知った顔が居れば、話しかけることに躊躇いは感じない。
「“ドジョウ”をね、掬いに来てるんですよ」
「ほうほう。そういうことかいな」
初老の男の言葉に、意味ありげな笑みを浮かべて、中年の男性はグラウンドへと視線を移していた。
「………」
その会話を背後に聞きながら、ビデオカメラを廻しているのは、双葉大学の主要な試合を記録として収めている、エレナの夫・栄輔であった。そして、隣には、息子の裕輔もいた。
母親が監督を務めているチームの試合というだけあって、幼いながらに緊張感を漂わせながら、裕輔はグラウンドを見つめている。
「プレイボール!!」
様々な視線を浴びながら、注目の試合が始まりを迎えた。