『SWING UP!!』第11話-10
さて、である。
「HAHAHAHA!!」
高笑いを響かせながら、5番打者の“能面”が右打席に入った。ちなみに、アナウンスでは“のーまん”と呼ばれた彼は、南米生まれの日系人で、日本に帰化する前の名前は、“アルフレットリオ・エスタルディ・リットバル・ノーマン”と言った。
“ノーマン”という姓に、“能面”と当てたのはかなり無理があるのだが、それは“能”を観ることが大好きだった日本人の祖母にあやかったものらしい。故あって、15歳の頃から日本で祖母に育てられた彼は、この世で一番大好きだった祖母の好きなものを、名前にも取り入れたかったのだろう。
身長は、おそらく2メートルに達する。間違いなく、“隼リーグ”で最も身長の高い選手であった。
つまり、法泉印大学は、リーグ最小の選手と、リーグ最長の選手が、同時に存在しているのだ。まさに“多士済々”というべきチームの特徴が、はっきりと表れている。
ギギン!
「!」
長い腕から繰り出された能面のスイングは、外角のボールになる関根のスライダーを拾い上げ、ライトへ高々とフライを打ち上げた。三塁走者の梧城寺が、タッチアップで生還するには、充分すぎる当たりであった。
法泉印大学に、先制の1点が入った。…そして、結果的にはこの1点が、“天王山”ともいうべきこの試合の、決勝点になった。
【仁仙大学 対 法泉印大学】
【仁仙大】|000|000|000|0|
【法泉大】|010|000|00X|1|
「ストライク!!! バッターアウト!!! ゲームセット!!!」
マウンドに仁王立ちする、法泉印大学の左腕エース・天狼院隼人。
総合力の高い仁仙大学の攻撃陣に対して、三振と凡打を量産し、好機らしい好機を与えることも無く、散発の3安打に封じ込めた。ちなみにその3安打は、3番・六文銭孝彦の2本と、この試合は2番・右翼に入っていた、水野葵の1本である。4番の安原誠治は、この試合は3打席で退いており、いずれも凡退に倒れていた。
「………」
なるほど、“隼リーグ・最強の左腕”と言われるだけのことはあり、天狼院隼人の、そのがっしりとした体格から投じられるストレートの球威は、横から見ていても凄まじいものがあった。
「?」
大和は、ふと、マウンド上の天狼院隼人が、こちらに視線を向けていることに気づいた。不敵な笑みを浮かべるそれは、明らかに“挑発”を感じさせるものだった。
あの位置から、すかさず自分を見つけてくる視力もさることながら、天狼院隼人は、大和をかなり強く意識しているというのも、よくわかった。
(おもしろい)
大和も、天狼院隼人の視線を受けて、知らずその頬が綻んでいた。普段は奥底に仕舞いこまれている、“負けん気の強さ”が湧き出して、彼にそんな表情をさせたといえよう。
“最強の左腕”と“最高の右腕”が、前期日程の最終戦で対決する。
“隼リーグ”のフリークたちを、今から愉しみにさせているその試合は、2週間後に予定が組まれていた。