夏の1日と彼の優しさ?-1
猛が転入してから一週間。
夏休みを間近に控えた現在、猛は変な時期に転入した割に結構クラスに溶け込んでいた。元々愛想のいい性格に加え、あまり目立つことを良しとせず常識のある人間振りがなせるが故のこと。
そしてとうとう夏休みが3日前に迫ったある日の昼休み。
猛に話しかける男がいた。
「おーい、猛!夏休みなんか予定あるか?」
「ん?嵐士か。まー…特にはないけど」
自分の席でいつものように大量の昼飯を広げていた時、声をかけてきたのはクラスメイトの清水嵐士(しみず あらし)。標準的なショートの黒髪に黒い瞳、笑うと八重歯を覗かせるその男は弁当箱を持参して猛の前の椅子を借りてそこに腰を下ろした。
「じゃあ一緒にここ行かね?」
そう言って嵐士がニヤリと笑んで手にしていたのは、2枚の長方形の薄い紙。
食べる手を休まず首を傾げる猛に、嵐士はその2枚のうち1枚を猛に手渡し内容を確認させた。
「なになに…ウォーターズタウン?」
「おう、まあようは温水プールの遊園地だな」
持参した弁当箱を広げながらそう言う嵐士に、猛は小さく唸った。
この1週間、こんな変な時期に転入してきた自分を気にかけてくれた、今ではクラスの中で一番仲のいい男友達と言えるその人と遊びに行くのは実際嬉しくないわけがない。ただ、猛は一つの疑問を控えめに嵐士にぶつけた。
「……男、二人でか?」
別に嵐士と行くことに不満があるわけじゃない。だけど男二人でそんな場所へ行ってもあまり楽しくないというか、虚しいというか。特に嵐士は同じクラスに彼女がいるのにもかかわらずそっちではなく自分を選んだことに猛は疑問を感じていた。そんな猛の問いかけで猛の懸念を何となく感じたのか一度箸を止めた嵐士は簡単に答えた。
「いや、実は俺とお前の二人きっりってわけじゃないんだ。というかそんなことするくらいなら彼女誘うし」
「だろうな」