夏の1日と彼の優しさ?-32
「…っ」
口に何か柔らかいものが触れたのを理解した瞬間、猛は完全に硬直した。美咲が両手を離しても身動き一つしないのを見て、美咲は小さく笑みを零した。その笑みに見惚れていた猛だけど、すぐに朝と同じようなアングルになっていることに気が付いて目を逸らした。
「み、美咲?いきなりどうしたんだよ」
「だって、こうすれば伝わるかなって」
「…十分伝わったから、もうこういうことはするなよ」
呆れたように溜息をつきながら言う猛に、美咲は不安そうに猛を見上げた。
「…嫌だった?」
そんな表情までも多少の艶があってさらには上目遣いになっているので猛は頭がクラリとした。今すぐにでもまた美咲の柔らかい唇の感触が味わいたいという欲望に駆られるも何とか堪えて美咲の耳元に口を寄せる。
「嫌じゃない。ただな…オレだって男なんだからあんなことされたら勘違いするだろ」
耳元で囁いたのがくすぐったかったのか微かに身を捩る美咲。
「勘違い?」
「…悪い、聞かないでくれ」
理解してない美咲が首を傾げるけど、さすがにこれ以上を口に出すのは男として駄目だと思い猛は切実にそう頼んだ。これ以上は自分の心臓にも体(の一部)にも悪いと感じた猛は話題を逸らし、そのまま2人は時折笑いながら目的の駅を降りた。
そのまま2人は改札を出て、美咲の家に向かう。
「美咲の家って遠いのか?」